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バイオ技術によるモノづくり変革−生物由来の素材誕生へ

バイオ技術によるモノづくり変革−生物由来の素材誕生へ

スパイバーとゴールドウインが共同で開発中のクモ糸製ジャケット

 全遺伝情報(ゲノム)編集など先進バイオ技術の発展により、人工クモ糸や嗅覚受容体センサーのような生物由来の新素材が誕生する期待が高まっている。微生物や植物に製造させることで実現するこれらの新素材。強度や感度などの機能面のポテンシャルは、金属や石油化学由来の素材を大きく上回る。IoT(モノのインターネット)などデジタル技術と並び、バイオ技術によるモノづくりの変革が注目される。

商業化狙う


 「たんぱく質はモノづくりを変革する可能性を秘める」。慶応義塾大学先端生命科学研究所の冨田勝所長が期待するのは、同大発ベンチャーのスパイバー(山形県鶴岡市)。人工クモ糸の商業化を目指している。

 鋼鉄の340倍の強度を持ちながら伸縮性も高いという、この強くてしなやかな素材を用い、アウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス」を手がけるゴールドウインとジャケットを開発中だ。将来は自動車や医療機器などへの応用を狙う。

 糸を製造するのはクモではなく、糸たんぱく質の遺伝子を組み込んだ微生物。「クリスパーcas9(キャスナイン)」をはじめとするゲノム編集技術により、この遺伝子を組み込む作業が容易になりつつある。

 さらに次世代シーケンス(解読)技術により、自然界から有用な遺伝子の候補を見つけ出すのも簡単になった。DNA解読コストはこの7年間で1万分の1と、半導体分野の「ムーアの法則」をも上回るペースで減少。あらゆる生物のゲノムをビッグデータ(大量データ)として集められるようになった。

 将来は集めたゲノムを人工知能(AI)で解析し、遺伝子の機能を推定するといったこともできそうだ。



石油化学など素材分野にも応用進む


 このような先進のバイオ技術が後押しする「生物によるモノづくり」(経済産業省)。その応用先はバイオ医薬品の製造や再生医療にとどまらず、石油化学品など素材分野にも広がりつつある。
(文=平岡乾)

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日刊工業新聞2016年6月17日 深層断面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
微生物や昆虫などの力を利用した「バイオモノづくり」の市場が広がりつつあります。欧米が先行している部分もあり、経産省も力を入れ始めています。

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