キリンのM&Aを考える。医薬・バイオが再生の鍵に

「酒類」本業に強い危機感。多角化をさらに進めるのか

 キリンホールディングス(以下キリンHD)は、「国内酒類・飲料」「海外酒類・飲料」「医薬・バイオケミカル」「その他(小岩井乳業、横浜アリーナなど)」の4つの事業セグメントを持ち、『「食と健康」のスタイルを一歩進んで提案し、世界の人々の健康・楽しさ・快適さに貢献』するという理念を追求している。


(2015年12月期 有価証券報告書より引用)

 連結売上高2兆円を超えるグループのM&A戦略の歴史を見てみよう。

キリンHLDが行った主なM&A(資本出資含む)
年月 内容 買収金額 売上高 出資比率

1923.5 東洋醸造を買収
1949.4 ベルギーのオムニケムの全株式取得
1952 鎌倉海浜ホテルを連結子会社とする(13年清算)
1975.4 Indústria Agrícola Tozan S.A.(現・Indústria Agrícola Tozan Ltda.、ブラジル)に資本参加
1976.6 長野トマト(現・ナガノトマト)に資本参加(10年株式譲渡)
1977.5 鶴見倉庫を完全子会社とする(09年株式譲渡)

1981.11 K.B.B. Malting Co., Pty Ltdを完全子会社化K.B.B. Malting Co., Pty Ltdを完全子会社化
1982.2 日本ツーリスト開発を連結子会社とする(05年株式譲渡)
1982.2 KW Inc.を完全子会社化
1982.5 三桜貿易に資本参加
1989.2 RAYMOND VINEYARD & CELLAR, INC.を連結子会社とする(09年株式譲渡)
1989.9 トキタ種苗に資本参加(10年株式譲渡)

1996.11 コスモ食品に資本参加
1998.4 Lion Nathan Limited(ニュージーランド、現・Lion Nathan Pty Limited)に資本参加 1,000億円 45%
2002.3 San Miguel Corp.(フィリピン)に資本参加(09年株式譲渡) 680億円 2,191億円 15%
2002.4 永昌源を連結子会社とする 51億円 99%

2006.12 杭州千島湖啤酒有限公司(中国)に資本参加 45億円 24億円 49%
2006.12 メルシャンを連結子会社とする 247億円 50.89%
2007.12 協和発酵工業に資本参加 1,673億円 3,542億円 50.1%
2007.12 National Foods Limited (オーストラリア、現・Lion-Dairy & Drinks Pty Ltd)を完全子会社化 2,940億円 1,932億円 100%

2008.11 National Foods LimitedがDairy Farmers(オーストラリア)を完全子会社化 840億円 1,116億円 100%
2009.4 San Miguel Brewery(フィリピン)に資本参加 1,268億円 927億円 49%
2009.1 Lion Nathan National Foods Pty Ltd(現・Lion Pty Ltd、オーストラリア)がLion Nathan Limited(オーストラリア)を完全子会社化 2,300億円 1,453億円 100%
2010.12 メルシャンを完全子会社化 805億円50.89%→100%

2011.3 Interfood Shareholding Company(ベトナム)を連結子会社化 46億円 100%
2011.10 スキンカリオール・グループ(現・Brasil Kirin Holding S.A.)を連結子会社化 1,988億円 50.45%
2011.11 スキンカリオール・グループを完全子会社化 1,050億円 50.45%→100%
2015.12 ミャンマー・ブルワリー社の株式取得 697億円 55%


 上記表を見て分かるように、キリンHDは98年からLion Nathan Limited(ニュージーランド、現Lion Nathan Pty Limited)に資本参加するなど、国内の酒類市場の急速な縮小に危機感を持ち、海外に成長を求めた。

 その後も、2007年にNational Foods Limited (オーストラリア、現Lion-Dairy & Drinks Pty Ltd)を完全子会社化(投資額2,940億円)、09年にLion Nathan National Foods Pty Ltd(オーストラリア、現Lion Pty Ltd)がLion Nathan Limited(オーストラリア)を完全子会社化(投資額2,300億円)、11年にスキンカリオール・グループを完全子会社化(投資額3,000億円)するなど、大型投資を次々行っている。

 06年に策定された、15年までの長期経営計画「KV2015」では、10年先を見据えた飛躍的な成長シナリオとして、『酒類・飲料・医薬を主力事業として、アジア・オセアニアのリーディングカンパニーを目指す』を掲げ、国際化を推進することを明言している。

 このシナリオ通り、National Foods Limitedを完全子会社化し、さらに09年には破談にはなったもののサントリーホールディングスとの経営統合も模索するなど、アジア・オセアニアのリーディングカンパニーとなるべく、順調に事が運んでいたかのように見えた。

 「KV2015」では同時に到達目標を設定していたが、15年12月期実績と比較してみよう。


 表のとおり、「KV2015」の数値目標は全て未達成となっている。海外投資の成否について財務的側面に目を向けると、10年12月期において、National Foods Limitedに388億円の減損損失を計上、15年12月期において、スキンカリオール・グループに1,412億円の減損を計上するなど、海外M&Aにつまずいているのが現状のようだ。さらに、海外に力点を置き、国内における販促費などを削減し過ぎた結果、アサヒビールやサントリービールに国内におけるシェアを奪われてしまった。

 06年以降の大手5社の国内ビール系飲料の課税済み出荷量推移を見てみよう。

(ビール大手5社発表のビール系飲料(ビール・発泡酒・新ジャンル)の課税出荷数量を参照)

 09年まで、アサヒビールとシェア首位争いをしていたが、14年にはシェアの差を過去最大5%まであけられてしまった。15年には、販促費を大量投下した効果も出て、その差を4.8%まで縮めることができたが、一度あいてしまった差を埋めることは容易ではなさそうである。

 続いて、連結売上高推移および対売上高販促費・広告費率推移を見てみよう。


 上記グラフの08年以降を見ても分かるように、販促費・広告費の増減が、売上高の増減と比較的近い動きをしている。こうした結果もあり、国内市場においては、販促費・広告費を1,000億円規模投じる予定である。

 しかしながら、世界保健機関(WHO)は10年5月の第63回総会で、酒類の販売・広告を規制する指針を採択したこともあり、業界として自主規制の強化の方向にある。現状、WHO加盟国への法的拘束力はないものの、今後世界的な規模での規制が検討されており、酒類の広告規制が、業績に悪影響を及ぼす可能性は否定できない。

 酒類セグメントにおける苦戦が強いられている一方で、医薬・バイオケミカル事業の好調が目立つ。セグメント別売上高割合およびセグメント別営業利益割合を見てみよう。


 15年度の、医薬・バイオケミカルセグメントは、キリンHD全体に対する売上高割合こそ16%程度であるが、営業利益割合においては、国内飲料と同様の36%も出しており、稼ぎ頭となっていることが分かる。

 医薬・バイオケミカル事業の発足は、1981年までさかのぼる。当時策定された「長期経営ビジョン」で打ち出された『事業多角化』への積極姿勢において、それまで培った技術を核に、医薬などライフサイエンス分野へ進出した。

 そして、07年7月に純粋持株会社制に移行する際に、医薬・バイオケミカル事業をキリンファーマとして分社化、同年12月に協和発酵工業の株式50%超を取得することで、医薬・バイオケミカル事業の成長を加速させた。

 16-18年中期経営計画においては、今後承認予定のグローバル戦略3品を欧米市場に販売する施策を立てている。20年には、グローバル・スペシャリティファーマとして、営業利益1,000億円、ROE10%という飛躍的成長を遂げることを目標として掲げている。

 キリンHDは、16-18年中期経営計画で「構造改革による、キリングループの再生」と記載しているように、酒類という本業の現状に対し相当強い危機感を持っているようだ。確かに、酒類関係の海外M&Aにおいて多額の減損を計上するなど、失敗といっても過言ではない経験してきた。

 一方、医薬・バイオケミカル事業のM&Aの結果、利益を生む事業として成長してきていることを鑑みると、『事業多角化』は成功していると言えるだろう。

 将来において、現セグメント内での投資に全力を注ぐのか、それともさらなる『事業多角化』を進め、新しい分野に進出することがあるのか、今後の動向に注目していきたい。

※この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

M&A Online編集部2016年06月14日

石塚 辰八

石塚 辰八
06月16日
この記事のファシリテーター

「国内酒類・飲料」「海外酒類・飲料」「医薬・バイオケミカル」「その他(小岩井乳業、横浜アリーナなど)」の4つの事業セグメントを持つ現在のキリンHD。2009年に一度俎上に上ったサントリーホールディングスとの経営統合にも注目が集まる同社のM&Aの歴史をひもとく。

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