ニュースイッチ

「仮想発電所」のリアルなビジネス事業者は登場するか

家庭やEVの蓄電池を活用すればシェアードエコノミーにも
 太陽光発電、蓄電池、燃料電池など点在する小さな電源をIoT(モノのインターネット)で束ね、一つの発電所のように扱う“仮想発電所”が登場間近だ。仮想発電所は再生可能エネルギーの導入を増やしたり、一瞬で電力需給を整えたり、火力発電所に匹敵する機能を発揮して電力不足を解消する。技術開発が続けられてきたスマートグリッド(次世代電力網)の集大成であり、構築が進むとスマートコミュニティー(次世代社会インフラ)へと発展する。

東電の実証、太陽光発電「出力抑制」


 東京電力ホールディングス(HD)は15年度、太陽光発電の発電量を抑える「出力抑制」の実証事業に取り組んだ。出力抑制は天候で発電量が変わる太陽光発電をコントロールし、需要を超える電力が系統に流れ込まないようにする。

 東電HDの実証は、エネルギー総合工学研究所がとりまとめた「次世代双方通信出力制御緊急実証事業」。関西電力、北陸電力、九州電力も参加した。

 早稲田大学(東京都新宿区)に置いた「電力サーバー」が全国の太陽光発電所のパワーコンディショナー(パワコン、電力調整装置)に出力抑制の信号を発信する。

 出力は1%刻みでの設定変更が可能。最大出力が1000キロワットのパワコンに80%を指示すると上限が800キロワットに設定される。太陽光パネルが1000キロワットを発電しても、800キロワットを超えた送電をさせない。

 再生エネの導入量が増えた一部の電力会社で出力抑制が始まっているが、現状ではパワコンをオフにするので送電量がゼロになる。実証のように細かく出力を調整できると、各地の太陽光発電所に少しずつ抑制に協力してもらって全体の抑制量を増やせる。小さな電源を束ね、電力需給を保つ仮想発電所だ。

 東電管内では太陽光発電所、住宅用太陽光発電の計14カ所に対し、出力抑制を試した。例えば前日の夕方、発電所に「翌日10―12時、30%」と発信し、パワコンに準備をさせておく。翌日の朝、予想よりも日射が多そうなので抑制時間を16時まで延長。さらに天気予報が変わったので12―14時は100%、14―15時は10%と指示を変えた。

 東電HD経営技術戦略研究所分散電源技術グループの北島博晃副長は「太陽光発電の予測は難しく、実際の運用では直前で指示を出した方がいい。当日に変更しても指令通りに動いた」と成果を語る。

社会コストの最小化へ


 東電管内は再生エネの受け入れ量に余裕があり、現状では出力抑制は迫られていない。今回の実証は「将来の再生エネの大量導入への備え」(北島副長)という位置付けだ。特に「社会コストの最小化」を狙いにした。出力抑制が機能すれば、再生エネの増加に伴う設備増強のコストを抑えられる。

 東電HD管内の実証に参加し、自社のパワコンの出力抑制への対応を試した京セラ研究開発本部の草野吉雅氏は「仮想発電所は再生エネの導入を増やせる」と語り、太陽光パネルの販売機会の拡大にも期待を寄せる。

 節電も仮想発電所の機能の一つだ。フランスでは13年4月、季節外れの寒波襲来で電力が不足した時、火力発電所1基に相当する51万キロワットの節電に成功した記録がある。

 この節電は、デマンドレスポンス(DR、需要応答)と呼ばれる手法で実施した。通常、電力不足が心配されると電力会社が供給量を増やす。DRは電力を使う需要家が節電によって需要量を減らして需給を調整する。

欧米、電力会社に代わるデマンドレスポンスを担う


 欧米には電力会社に代わって需要家に節電を依頼するDR事業者が存在する。仏の51万キロワットの節電はDR世界大手の仏エナジープールが、53工場に一斉に節電を依頼した。1件1件の節電量は少なくても、集めることで火力発電所に匹敵する効果を生んだ。

 日本法人のエナジープールジャパン(東京都港区)の市村健社長はDRの役割を「社会的コストの抑制」と話す。電力会社は供給不足に備え、余分に火力発電所を保有している。

 電力自由化の進展によっては常に稼働しない発電所の負担が重くなり、電力会社は抱えきれなくなる。DRが仕組みとして用意されていれば、仏のように節電が火力発電所代わりなる。

高額が普及のネック


 大手企業以外も仮想発電所ビジネスへの参画を目指している。エプコは福岡県みやま市と連携して4月、市内の家庭にある蓄電池80台を束ねて仮想発電所にする実証事業を始めた。同市が立ち上げた新電力の電力が逼迫(ひっぱく)すると、蓄電池に放電を指示して供給力不足を補う。

 蓄電池1台は小規模でも、80台がまとまると家庭50戸分の1日の消費電力に相当する512キロワット時の充電量となる。実証は経産省の支援を受けている。

 再生エネの変動を吸収しようと大型蓄電池の導入が始まっているが、高額なことが普及へのネックとなっている。家庭で普段から使っている蓄電池を仮想発電所にすれば、蓄電池の費用を圧縮できる。
<全文は日刊工業新聞電子版に会員登録して頂くとお読みになれます>
※6月15日ー17日まで東京ビッグサイトで「スマートコミュニティJapan 2016」が開催されます。
登録はこちらから

松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
仮想発電所、バーチャルパワープラント、VPP。すっかりとキーワードになってきました。得体が知れない感じもしますが、リアルな発電所の代わりをするのがVPPの基本と思っています。日常的に使っている家庭の蓄電池、EVの蓄電池をVPPに活用できれば、シェアードエコノミーにもなります。VPPを操る事業者は登場するのか、一番の課題であり、注目ポイントです。

編集部のおすすめ