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三菱自に送り込まれる開発担当の元日産副社長。根深い闇にどう切り込む?

山下光彦氏「単に外部のチェックが入れば良いという問題ではない」
三菱自に送り込まれる開発担当の元日産副社長。根深い闇にどう切り込む?

山下氏

 「中に入って実態を知らないと何とも言えない」。日産自動車元副社長の山下光彦氏。三菱自動車の開発担当副社長への就任が内定する前、日刊工業新聞の取材に応じてこう話した。「日産で作り上げてきた仕組みや組織は役に立つのだろう。ただ開発は複雑で、単に外部のチェックが入れば良いという問題ではない」とし、三菱自の自浄作用を促す考えも示唆した。

 山下氏は日産の研究開発担当者副社長を2005年から14年まで務め、電気自動車(EV)の開発などを主導。また仏ルノーとのアライアンス拡大、独ダイムラー、米フォードとの燃料電池車(FCV)技術の共同開発に携わるなど豊富な経験を持つ。

 「三菱自動車さんが決めたこと」。日産首脳は山下氏の人事について日産が推薦した候補者の中から三菱自が自ら選んだとし、開発部門の変革を期待する。

 「意識改革や組織改革が、開発部門は特に遅れていたと言わざるを得ない」。三菱自の益子修会長は会見で透明度の高い組織を作れなかった経営責任を悔いた。04年にリコール隠し問題で信用が失墜する三菱自に三菱商事から送り込まれ、翌年から社長に就任して改革に取り組んできた益子会長の言葉は開発部門の問題の根深さを物語る。

 軽自動車で協業する日産の指摘で燃費試験データの改ざんが発覚し、机上計算など会見の度に明るみに出る不正行為。また04年前から国内法規とは異なる方法で試験データを測定し、当時の担当者から明確な回答を得られなかったとして原因も究明できなかった。三菱自の相川哲郎社長は引責辞任を表明した会見で古巣の開発部門の改革には「外の血が必要だ」と述べ、改革の限界も示した。

 日産は今秋をめどに三菱自の株式34%の取得を目指すが、資本参加前の6月24日の株主総会後に山下氏を送り込む。閉鎖的で不正を繰り返す開発部門の変革は日産にとっても提携を軌道に乗せる上で肝となる。

 「ドイツやデトロイトでは自動車エンジニアが日本よりずっと尊敬されている。技術会を魅力的な場にしてエンジニアの育成や技術立国日本に貢献したい」。山下氏は12―13年に自動車関連技術者で構成する自動車技術会で会長を務め、13年の大会でこう述べている。

 三菱自はリコール隠しが発覚した際、多くの開発担当者が会社を去った。開発部門の問題を根絶するとともに、エンジニア一人一人の自信と誇りを取り戻すことが求められている。
日刊工業新聞2016年5月26日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
山下さんは06年に自動車担当していた時から知っているが、とてもソフトな印象の一方で頑固な部分も持ち合わせている。日産時代はゴーン社長が正真正銘の「ラストマン」だったが、三菱自では開発部門における「ラストマン」になれるか。

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