韓国造船ピンチ、公的支援で経営再建へ。日本はチャンスなのか
生産能力に見合った受注は不可能で再建は難航
業績不振の続く韓国造船大手が、経営再建を本格化させる。韓国政府は8日、大宇造船海洋、現代重工業、サムスン重工業の再建策を確定。これを受け3社は、資産売却や人員削減といった抜本的な構造改革に踏み切る。2015年の3社合計の営業損益は約8兆ウォン(約7400億円)規模の赤字に達したもようで、公的支援を伴う業界の再生が不可避となっていた。低迷する海運市況は回復の兆しが見えず、韓国造船大手の再建は難航が予想される。
大宇の15年の営業赤字は約5兆ウォンとなり、3期連続の赤字に苦しむ。現代重工、サムスン重工もそれぞれ約1兆5000億ウォン規模の赤字を計上した。韓国政府は8日、関係長官会議を開き、造船大手3社の立て直し策を決定。今後も危機的状況が続くとみられる造船や海運向けに、総計12兆ウォンの資金を投じる。
政府は同会議で3社が提出した10兆ウォン規模の経営再建計画を最終承認。各社のメーンバンクもすでに再建計画を了承している。再建に向けて大規模な人員削減も想定され、政府は今月中に雇用支援策をとりまとめ、造船業の特別雇用支援業種への指定も検討する。
最大市場である中国の経済減速や船腹過剰に加え、韓国企業は猛追する中国を突き放そうと、高い技術力が要求される海洋プラント分野に参入したことが影響。原油安を背景に原油や天然ガスなどの資源開発は低迷し、資源採掘に用いる海洋構造物の受注減が顕著となった。その上、技術力不足から幾度の工事遅延も発生し、各社とも多額の損失計上を余儀なくされた。
日本造船工業会によれば世界の造船受注は07年の1億総トンをピークに、足元では7000万総トンにまで落ち込んでいる。新造船量の低下を横目に、韓国・中国勢は生産能力の増強を継続。現在の能力は韓国3500万総トン、中国3900万総トンに達している。新造船の供給過剰が続くなか、「生産能力に見合った受注は不可能」(業界関係者)との見方が支配的だ。
一方の日本勢は40年間守ってきた世界首位の座を中国や韓国に奪われつつも、むやみに能力拡大をせず、生産性向上や環境技術の開発にまい進。造船不況に耐えうる体制を着実に整えてきた。
手持ち工事量も3年分を抱え、この間に液化天然ガス(LNG)船やメタノール船、水素運搬船などの高付加価値船で2強を追撃する。15年の世界受注量シェアは、中国33・0%、韓国30・9%、日本26・9%と2国の背中は見えてきている。
5月に行われた経済協力開発機構(OECD)の造船分野会議で日本は、世界単一市場である造船業は個社に対する公的支援が、市場原理に基づく判断かどうかについて、問題提起をした。
安値受注を続ける韓国・中国勢を政府がこのまま支援を続ければ、市場原理が働かず、業界の新陳代謝は進まない。「公正な競争条件が担保されない公的支援は、世界の造船業界のリスク」(関係筋)になりうる。
(文=長塚崇寛)
大宇の15年の営業赤字は約5兆ウォンとなり、3期連続の赤字に苦しむ。現代重工、サムスン重工もそれぞれ約1兆5000億ウォン規模の赤字を計上した。韓国政府は8日、関係長官会議を開き、造船大手3社の立て直し策を決定。今後も危機的状況が続くとみられる造船や海運向けに、総計12兆ウォンの資金を投じる。
政府は同会議で3社が提出した10兆ウォン規模の経営再建計画を最終承認。各社のメーンバンクもすでに再建計画を了承している。再建に向けて大規模な人員削減も想定され、政府は今月中に雇用支援策をとりまとめ、造船業の特別雇用支援業種への指定も検討する。
最大市場である中国の経済減速や船腹過剰に加え、韓国企業は猛追する中国を突き放そうと、高い技術力が要求される海洋プラント分野に参入したことが影響。原油安を背景に原油や天然ガスなどの資源開発は低迷し、資源採掘に用いる海洋構造物の受注減が顕著となった。その上、技術力不足から幾度の工事遅延も発生し、各社とも多額の損失計上を余儀なくされた。
日本造船工業会によれば世界の造船受注は07年の1億総トンをピークに、足元では7000万総トンにまで落ち込んでいる。新造船量の低下を横目に、韓国・中国勢は生産能力の増強を継続。現在の能力は韓国3500万総トン、中国3900万総トンに達している。新造船の供給過剰が続くなか、「生産能力に見合った受注は不可能」(業界関係者)との見方が支配的だ。
市場原理が働かず業界の新陳代謝は進まない
一方の日本勢は40年間守ってきた世界首位の座を中国や韓国に奪われつつも、むやみに能力拡大をせず、生産性向上や環境技術の開発にまい進。造船不況に耐えうる体制を着実に整えてきた。
手持ち工事量も3年分を抱え、この間に液化天然ガス(LNG)船やメタノール船、水素運搬船などの高付加価値船で2強を追撃する。15年の世界受注量シェアは、中国33・0%、韓国30・9%、日本26・9%と2国の背中は見えてきている。
5月に行われた経済協力開発機構(OECD)の造船分野会議で日本は、世界単一市場である造船業は個社に対する公的支援が、市場原理に基づく判断かどうかについて、問題提起をした。
安値受注を続ける韓国・中国勢を政府がこのまま支援を続ければ、市場原理が働かず、業界の新陳代謝は進まない。「公正な競争条件が担保されない公的支援は、世界の造船業界のリスク」(関係筋)になりうる。
(文=長塚崇寛)
日刊工業新聞2016年6月10日