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三菱電機の研究開発、IoTシフト鮮明に。投資増額でオープンイノベーション

三菱電機の研究開発、IoTシフト鮮明に。投資増額でオープンイノベーション

柵山社長

 【米ピッツバーグ=後藤信之】三菱電機は2020年度に、売上高に占める研究開発費比率を5・5%(15年度は4・6%)に引き上げる方針を明らかにした。金額ベースでは2750億円程度(15年度比35%増)になる見通し。IoT(モノのインターネット)を活用して各事業を連携した製品やサービスの創出につなげる。

 三菱電機は15年に「未来イノベーションセンター」をデザイン研究所(神奈川県鎌倉市)に設立し、長期的視点に立った研究開発戦略を策定。市場から求められる課題解決のキーワードとして「IoT」、自動運転などの「スマートモビリティ」、ビルシステムなどにおける「快適空間」、「安全・安心インフラ」を掲げた。

 今後、これら4分野について各事業部が連携して研究開発する。特に部品、機器などに付随する運用や保守で新サービスを創出する考えだ。従来の延長線にない革新的技術の開発も積極化する。10―20年先を見据えて事業の“種”をまき、持続的な成長を実現する。一方、FA(工場自動化)やエレベーターなど既存の製品や技術の磨き上げも継続する。

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MIT・ハーバード大と連携深める


 【ケンブリッジ(米国)=後藤信之】研究開発を強化するため、オープンイノベーションを推進する三菱電機。その重要拠点の一つが、名門大学が集まる米国・マサチューセッツ州に拠点を構える研究所「三菱電機リサーチ・ラボラトリーズ(MERL)」だ。1991年の設立から25年間で培ったコネクションを生かし、マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学などとの交流を積極化。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)など先端分野での研究開発を加速させる。

 「やあ!元気にしてたかい?」―。先週、MERLはマサチューセッツ州ケンブリッジで設立25周年記念式典を開催。大学教授ら約50人のゲストとMERL研究者が集まり、気さくに声を掛け合った。MERLからMIT教授に転じた経歴の持ち主が、当時の思い出を語る場面もあった。

 MERLの特徴の一つは、米国屈指の“頭脳”との地理的な近さだ。ハーバード大は車で10分程度の距離にあり、MITには歩いて行ける。

 MIT出身のMERL研究員、クリストファー・ラクマン氏は「学生の時からMERLの研究内容をよく知っていた」という。また同じくMIT出身でインターンからMERL研究員に就いたペトロス・ブフノス氏は「今でも研究室と頻繁に交流する。学生をインターンに誘うこともある」と話す。

 「25年の間に培ったコネクションは大きな強み」と、真柄卓司MERL上級副社長は説明する。MITをはじめ米国各地の多くの大学とスムーズに交流できる体制にあり、15年度は50件程度の共同研究を進めた。

 順調に進むMERLの産学連携。しかし三菱電機の近藤賢二専務執行役開発本部長は現状に満足していない。「まだ足りない。もっと事例を増やせ」とハッパをかける。

 背景にはIoTやAI、ロボット技術の進化に伴い、産業が大転換期を迎えており「ビジネスモデルを変革しないと生き残れない」(近藤専務執行役)との危機感がある。技術が多岐にわたり、それぞれが急速に進化しており、「自前主義は通用しない。外部から技術や人を集める」(同)と強調する。

 これまでMERLは信号処理、制御、最適化の3分野にフォーカスし、技術を磨いてきた。16年度からは、これら3分野のほかに「AI」と、実世界をコンピューター上に模擬的に再現し機器の改善に役立てる「物理モデリング&シミュレーション」の二つを重点分野に加えた。今後、関連の連携事例を増やす方針だ。

 またMERLには、日米の研究者をつなぐ橋渡し的な役割にも期待がかかる。今後、三菱電機が日本国内に有する研究所と、米国の大学との連携をコーディネートする。真柄MERL上級副社長は「日本国内の研究所とコラボレーションする機会を増やしたい」と意気込む。
日刊工業新聞2016年6月7日8日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
三菱電機は2020年度以降に成果が出る案件の開発投資を戦略的に増やしている。ただ柵山社長によると「最近は中長期の案件だと思っていたものが、意外と短期になっている。例えば自動車の安全運転支援はすごい勢いで進んでおり、刈り取りが早くなる可能性がある。IoTも事業化が早まりそうだ」と。以前から課題になっていた事業部間連携を研究開発でも実践できるか。ちなみに文中に出てくる開発担当役員の近藤専務は経産省の元幹部。山西会長が進めてきた“異種の血’人事の象徴でもある。

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