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「クルマと商社」を最もよく知る三菱自の次期社長候補

商事出身の白地氏はゴーン社長と二人三脚で組めるか
「クルマと商社」を最もよく知る三菱自の次期社長候補

右から益子氏、白地氏、ゴーン氏

 6月24日付で三菱自動車の副社長執行役員に昇格する白地浩三常務執行役員。“稼ぎ頭”である海外事業、グローバル・アフターセールスを担当する。白地氏は益子修会長と同じ三菱商事出身で、一貫して自動車事業に携わってきた。経営再建のキーマンである。益子会長は「長年自動車事業に携わってきた実績と経験、グローバルな事業経営に関する識見を経営にいかせる」と信頼を寄せ、三菱商事内でも「人間味のある温かい人で求心力がある」(関係者)と支持を集める。

 益子会長は白地氏の招聘(しょうへい)を決めた2月頃から周辺に「相川社長の補佐役として6月に副社長に据えるつもり」と漏らしておりサプライズはないが、懐刀の“入閣”は「会長兼社長の後継者」(関係筋)との見方が支配的で、三菱商事出身者が要職を占める構図が「一段と鮮明になった」(同)。

 白地氏と同時に、4月1日付で常務執行役員経営企画本部副本部長らを三菱商事から迎えたほか、三菱商事の執行役員に就任した中村達夫アジア・アセアン本部副本部長を執行役員アセアン本部長に引き上げた。

 自動運転技術などの次世代情報システムを推進する社長直轄のコネクティッドインフォメーションビジネス部なども“商事ポスト”の一つとされる。

 商社の強みは海外販売や金融、マーケティングなど多岐にわたるが、自動車メーカーが自ら手がけるケースは増加している。三菱商事はいすゞ自動車という重要なパートナーも持つが、三菱自とは一心同体の関係といえ、開発や生産を含めて“メーカー文化”を知る上で、より重い存在と位置づけられる。

 今後、自動車分野を積極的に開拓する意向を持つ三菱商事にとって、三菱自が日産自動車と提携することはプラスサイドに働くだろう。日産としても三菱商事が主導する三菱自の東南アジアの事業基盤は魅力だ。

不正は商社とメーカーの同床異夢が生んだ悲劇なのか


 今回の燃費表示不正問題を「商社とメーカーの同床異夢が生んだ悲劇」(業界関係筋)と指摘する向きはあるが「商事出身の益子氏でなければ、海外工場の閉鎖や車種絞り込みなど大胆なリストラはできなかった」(同)と評価する声は多い。

 暫定的に社長を兼務する益子会長は自身の進退について「(日産による出資完了後の)臨時株主総会で新体制が決まるまで」と述べている。

 不正に走った背景の一つに社内の“亀裂”があるのだとすれば「公平」で「透明性」のある人事制度の再構築なども必要になろう。ベクトルを合わせることが再建の早道になる。

9年前、白地と三菱自の二人三脚


日刊工業新聞2007年12月3日


 三菱商事の「自動車事業本部」は、三菱自動車と二人三脚の関係にある。三菱自の再建で増資を引き受け、同社の益子修社長は商事出身。同本部長も務めた。日米での販売などに課題は残るが、08年度にスタートする“ポスト再生計画”では、新興国のBRICs市場への攻勢が成長のカギを握る。商事はどんな役割を担うのか、白地浩三本部長に聞いた。

 ―三菱自がロシアで現地生産を検討しています。完成車輸出の方が商事にとってビジネスメリットが大きいのでは。
 「今は完成車輸出で通用しているが、三菱自は5、10年先を見据えて検討している」

 ―伊藤忠商事スズキのロシア生産会社に出資します。同様の考えは。
 「三菱自の状況を見ながらの相談になるが、詳細は聞いていない。ロシアに限らず製造部門で商社の主体的役割はないが、マネジメントなどで支援ニーズがあれば一般論としてマイナー出資はありえる。ただお付き合いという感覚ではない」

 ―ロシアのロルフと組んでディーラー事業を展開する可能性は。
 「まったく考えていない。ロルフには『MITSUBISHI』の非常に良いブランドを築いてもらっている。日本でいうヤナセさんのような存在で、信頼関係がある」

 ―中国販売では、統括会社を設立するという計画もありましたが。
 「いろいろアイデアはあるが中国事業全体の絵を描いているところ。三菱自が東南汽車に直接出資した。生産委託先には長豊汽車があり、完成車輸出は三菱商事(上海)が担当している。統括会社の役割が“統括機能”の会社なのかディストリビューター(卸売業者)の統括なのか、まだ整理すべきことがある」

 ―統括会社への出資になるのですか。
 「今でもそういう考えだ。中国販売は三菱自と一緒にやることで一致している」

 ―中国での販売金融に参入計画は。
 「消費文化ができつつあり可能性はあるが、まずは販売の基礎固めが先」

 ―ほかの日系メーカーよりインド事業が弱い。
 「年間販売台数がわずか4000台で相当出遅れているのは間違いない。今年、三菱自と協力して販売立て直しに動き始めたところ。旧型『パジェロ』『ランサー』を現地組み立てしているが、夏に新型パジェロの完成車輸出を始めた。どんな商品投入がいいか見極めている。数年後に年販売を万台単位にはしたい」

 ―独ダイムラー傘下の三菱ふそうトラック・バスの事業で、ダイムラーから販路分離などの要請はありますか。
 「ないですね。インドネシアで深い付き合いがあるし、今後も大事なパートナーに変わりない」
(聞き手=明豊)
日刊工業新聞2016年6月1日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
自動車担当記者の時に商社の連載をし、その時に初めて白地氏に会った。商社と自動車メーカーの関係はなかなか奥深い。日産のゴーン社長は日産のトップになって直後、密接な関係にあった丸紅と袂をわかち海外販売を日産直営に切り替り変えた。今回は商事の力を存分に活用するだろう。本来、不祥事が発覚しなければ白地氏が社長になることはなかった。別の見方をすると、これまで三菱自動車は商事にとって“天下り先"だったとも言える。三菱グループの庇護が外れた中で、白地社長が誕生した場合、商事がこれまでと同じようにサポートしていくのか、あくまでビジネスと割り切った関係を築くのか。

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