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<社説この一選!4月編> ブラジル経済混乱―造船などに打撃、情報収集急げ

ペトロブラスの大規模汚職疑惑を引き金にした造船各社のリスクを警鐘
<社説この一選!4月編> ブラジル経済混乱―造船などに打撃、情報収集急げ

IHIなどが出資したブラジルのアトランチコスル造船所

 新聞の社説がつまらない、という声は以前からよく聞かれます。一般紙は天下国家を主張する場合も多く、リアリティーの乏しい感情論になりがち。そこへいくと、日刊工業新聞は産業紙なのでより具体的なテーマを取り上げています。紙面の中でも注目度が高いコンテンツなのです。そこでニュースイッチ編集部では、独断と偏見で毎月、オススメの一本選んで、社説の面白さをもっと知ってもらうことにしました。題して「社説この一選!」―。

【4月15日付】
 政権への抗議デモが全土に広がるなど、ブラジル経済が混乱している。国営石油会社ペトロブラスをめぐる大規模汚職疑惑が一つの引き金。同社からの受注を見込んで進出した日本の造船、プラント企業の経営に深刻な影響を及ぼし始めた。特に技術面で、ペトロブラスが計画するブラジル沖深海油田開発への参画は、日本近海に眠るメタンハイドレートなどの開発技術を養うことにも直結する。わが国政府は情報収集や進出企業に対する支援を強化し、撤退の流れに向かわないよう努力してもらいたい。

 ペトロブラスはブラジル最大の企業で信用力も高かった。しかし汚職疑惑などにより社債の格付けは引き下げられ、株価も下落した。決算発表をたびたび延期するなど業績は不透明で、新規投資は停滞している。同国と取引がある日本企業の中では、プラント大手の東洋エンジニアリングがブラジルの浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備(FPSO)上部構造物建設で最大350億円の損失発生の危険性を発表している。

 また三菱重工業IHI川崎重工業などがそれぞれ資本参加する三つの現地造船所に対し、ペトロブラスなどが出資するドリルシップ(石油掘削船)発注企業のセッチ・ブラジルからの支払いが昨年11月から約5カ月停滞していることも明らかになった。未払い金総額は13億レアル(約476億円)に及ぶとされ、IHIや名村造船所は現地造船所への投資目的設立会社の株式の減損処理を決めた。

 国土交通省は3月下旬、ブラジルの開発商工省や金融機関などに未払い問題の早期解決を求めたものの、明確な回答を得ることはできなかった。この状況が続けば、ブラジルの深海油田に魅力を感じながらも、民間企業の判断でリスクの大きな海洋事業と距離を置かざるを得なくなる。まずは未払い金の支払いをねばり強く要求すべきだ。

 ブラジルと日本は1950年代に協力関係を深め、石川島播磨重工業(現IHI)がイシブラス造船所を設立した。しかし同社は、その後のハイパーインフレの混乱で94年に撤退を余儀なくされた。目下の経済混乱に、過去のトラウマを思い起こした関係者も多かろう。

 今回のブラジル経済危機は原油安も重なる複合的要因があり、事態を予測するのは難しかったかもしれない。しかし安倍晋三首相が昨年8月に同国を訪問し、海洋資源開発促進のための造船協力に関する共同声明を出してからわずかの期間でリスクが顕在化した。わが国が今後、インフラ輸出戦略を一層進め、経済協力を入り口に海外と友好関係を広げていくには、政府、民間とも情報収集力を高める必要がある。

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 IHIが2015年3月期連結業績予想を下方修正し、当期利益を前期比約73%減の90億円(前回2月時点予想350億円)に引き下げた。ブラジルの造船・海洋合弁事業をめぐり、291億円の特別損失を計上することが響く。国営石油会社ペトロブラスをめぐる汚職事件の余波が直撃した格好だが、市場では“ブラジルリスク”を織り込んでいたとみられ、株価への反応は限定的だ。ただ、同じく合弁事業を手がける川崎重工業は、影響は生じているものの、事業継続に問題がないという。影響度に差が出た背景には何があったのか。
 
 IHIは日揮、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)と共同で設立した投資目的会社を通じてアトランチコスル造船所(EAS)に出資しているが、EASの資金繰りが悪化。4月6日に出資にかかる損失などで連結当期利益に53億円のマイナス影響が生じると発表している。これに加え、EASに対する保証債務に見合う損失などを引き当てた。

 IHIが出資した13年当時、EASは「大型海洋構造物を建造できるブラジル国内唯一の造船所」(IHI)でペトロブラス向けにドリルシップ7隻、タンカー20隻などの受注残を抱える“金の卵”だった。

 ところが、ペトロブラス向け工事の発注者であるセッチ・ブラジルの汚職事件への関与が明るみに出て、昨年11月から支払いが停滞。IHIはEAS向けに愛知工場(愛知県知多市)で手がけていた居住区や船殻ブロックの建造をほぼ停止するなど「当面は損失の最小化を図っていく」(IHI)と“鬼子”になってしまった状況だ。

 一方、川重が出資するブラジルの造船合弁会社もセッチからの入金遅延が生じており、経営に影響を及ぼしているのは事実だ。川重は同造船所に48億円を出資し、株式の30%を握る。ドリルシップ2隻の船体供給契約に基づく坂出工場(香川県坂出市)での工事進捗(しんちょく)率は1番船83%、2番船26%に達し、代価309億円のうち61億円が入金されているという。

 4月28日にはアナリストや報道関係者に対し、村山滋社長自らブラジル合弁事業の状況を説明。事業には日本貿易保険(NEXI)の輸出保険が付保されていいるが、それにも増して「オデブレヒトが資金繰りを支援している」ことが大きく、「工場のスローダウン、つなぎ融資の借り入れ、一部レイオフなどで事業継続は問題ない。現地金融機関との交渉も進捗している」と断言した。

 川重が出資する造船所の出資比率のうち、70%はオデブレヒト主導のJV(共同事業体)が握る。オデブレヒトはブラジルの代表的な複合企業であり、事業規模は4兆円を超える。川重は「贈収賄事件への関与は一切なく、誓約書ももらっている」(村山社長)という念の入れようだ。

 資源価格下落などによるブラジル経済の急速な悪化もあり、日系企業が参画するブラジルの海洋・造船事業に不透明感が漂っているのは事実だが、「海洋資源開発の高いポテンシャルは継続している」(IHI)。日本造船工業会の佃和夫会長(三菱重工業相談役)も「復活を見込んで仕込む時期。手を引き動きにはなっていない。エンジニアリングリソースなどを十分に準備することが必要だ」としている。
日刊工業新聞2015年05月01日 機械・ロボット・航空機面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
社説とその下の関連記事をセットで読むと内実がよく分かる。ペトロブラスの影響は何も造船会社だけではない。ブラジルは去年のサッカーW杯や来年のオリンピックなどもあり、日本企業は多くの業種で市場開拓を目指してきた。歴史が古い造船業界ですら、予見できないことがたくさんある。今回の問題を政府も民間も教訓にするためにも、よいタイミングでの発信だった。

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