イタンジはなぜ「仲介手数料ゼロ」でも業界から嫌われないのか?

話題の「ノマド」を運営、伊藤嘉盛代表インタビュー

 2015年8月のM&Aによって、ネット不動産仲介として断トツの地位を確立した「ノマド(nomad)」は、無店舗、直接物件見学可、といった既存の仲介業の常識を覆すサービスを「仲介手数料ゼロ」というインパクトで提供している。ノマドを運営するイタンジの代表の伊藤嘉盛氏へのインタビュー、 初回では便利な顧客向けサービスに隠されたイタンジの真の狙いについて迫る。

店舗に人がいらなくなる? AI接客が現実に


 ―ノマドはクラウドサービス形態で仲介手数料はゼロという点に
 インパクトがありますが、実際の利用状況などはいかがですか?
 現在の成約件数は月間300件ほどで、毎月16%伸びています。サービス開始から1年足らずですが、東京エリアで展開する約4万の事業者のなかで25番目の位置にきました。

 その分利用者も増えていますが、我々は普通の店舗型の不動産会社と比べて約25倍の効率で対応しています。一般的に1人あたり月間で対応できるのは40件ほどですが、我々は1000件に対応できているということです。

 ―なぜそんなに高い効率で対応できるのでしょうか?
  例えば、AIチャットによる自動応答によって接客の手間を大幅に省いています。これは「〇〇駅近くの賃貸物件は?」「駐車場は?」「礼金は何カ月分?」といったお客様からの問い合わせに対し自動で最適な答え返すものです。AIチャットに関しては5月から、Facebookと連動したサービスも開始しています。

 ―画面(右図)を見るとまるで、人間が接客しているようです。自動応答とは驚きです。
 いわゆるディープラーニングと言われるものです。物件情報や礼金といった不動産の基礎知識、接客マニュアルをまず学習させます。そして、ユーザーが打った文字を自然言語解析して、その質問を理解して答えています。

 人工知能が応答できない部分はもちろん人間がフォローします。現在、60%の質問をAIチャットで完結できる状態ですが、応答できなかった部分を学習していくことで、この割合はさらに高められます。

「B」を通して「C」の利便性を向上する


 ―便利な仕組みで仲介手数料も「ゼロ」、ユーザーにとってはうれしいですが、不動産業界から脅威と見られて反発されたりしないのでしょうか?
 たしかに10人に1人くらいは、われわれを敵だと思って気にされている方もいるかもしれません。しかし基本的には、感謝されています。

 ―感謝というと…?
 実は、ノマドで一般のお客さんに提供している一連のシステムは、BtoBで不動産会社に提供するサービスのモデルケースという位置付けなのです。ノマドの仕組みをクラウドサービスとして利用することで、経営効率を上げ、売上げを2倍にしたという企業さんもいらっしゃいます。

 ―BtoCに見えるノマドはBtoBの側面があったということですね。
 ちなみにBtoBでノマドの仕組みを提供する際には仲介手数料の縛りはないのですか?
 はい。私たちは仲介手数料ゼロにしていますが、このサービスを利用している企業さんは自由に仲介料を設定できます。

 ―そうでしたか。実は「高額な手数料を取る業界慣習を打破したくて
 ノマドをやっている」というお話を聞くことになると思っていたので意外です。
 たしかに、賃料の1カ月、10万円前後の手数料相場は高く感じるかもしれませんね。でも、不動産の賃貸業界というのは非常に非効率で赤字の店舗すらあるくらいです。ですから、手数料を下げたくても下げられない、という現状もあるのです。

 ―仲介会社では、来店が土日に集中したり、部屋を何件も案内したあげく
  成約ならず …ということも日常茶飯事でしょうしね。
 その通りです。手数料を下げるためにも、まずは業界の業務効率化が必要です。その際にわれわれのシステムを利用していただければと思います。コストが下がれば、仲介手数料を下げる余地も出てくる。そう考えています。家族で経営しているような零細事業者にとっては、自分たち自身の休みが増えるというメリットもあります。

 ―既存の不動産産業界の敵のように見えて実は味方ということですね。
 確かに、見た目と実際のギャップはあるように思います。「B(ビジネス=事業会社)の状況を良くすることによって、C(カスタマー=一般の顧客)の利便性を向上させる」というのが私の基本的な考え方なのです。

 たとえば、不動産業者がAIチャットを入れれば、接客業務の効率化ができる。その余剰利益が顧客に還元されます。それにAIはウソをつかないから、不動産業者との情報格差による顧客への不利益がなくなるという直接的な利益ももたらします。

M&A Online

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石塚 辰八

石塚 辰八
06月02日
この記事のファシリテーター

旧態依然として変わらない日本の不動産賃貸業界。店舗側の電話対応や空き室確認といった非合理的作業の連続と、納得のいかない手数料を払うユーザー。そこにITの力で切り込もうとするベンチャーがいる。それがイタンジである。
人工知能(AI)をフル活用したチャットで、町の不動産屋さんが変わると代表の伊藤氏は言う。しかし既得権益に食い込むことに業界の反発はないのか?そこにイタンジが異端児である真の理由が見えてくる。昨年同業1位を買収して勢いづくITベンチャーの思い描いている未来とは?平成起業家にはない豪傑さを秘めた代表・伊藤氏を独占インタビュー。

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