VAIO、統合破談も何のその。自力で海外事業拡大へ
今期中に西欧と中近東に進出
VAIO(長野県安曇野市)は、2017年5月期中に、パソコン販売で西欧と中近東に進出する。米国とブラジルに続く海外展開となる。設計・製造を同社が支援し、現地企業がVAIOブランドのパソコンを生産・販売する。同社は高機能(ハイエンド)製品に特化しており、高所得者層やブランド知名度のある地域で事業を拡大する。
新たに進出する2カ国では、現地企業に生産・販売・サービスなどビジネス全般を委託することで、最小限の投資で現地でタイムリーに供給する体制を整える。同様の仕組みで事業展開しているブラジルでは、経済全体は不透明だが、高所得者層向けのため計画通りに販売できているという。
一方、販売代理店を通じて15年10月から自社の製品を電子商取引(EC)サイトなどで販売している米国では、近く販売機種を切り替える。米国進出の第1弾であるクリエイター向けタブレットパソコン「Zキャンバス」に代わり、ビジネスマン向けノートパソコン「Z」と同「S13=写真」を発売する。日本と同様に、米国でも中長期でビジネスユースの販売を伸ばす。
同社のパソコン販売はビジネス向けを強化する戦略が奏功し、16年5月期は前期比2倍に回復した。17年5月期は前期比で若干増加する計画。ブランドビジネスを展開するブラジル、西欧、中近東の販売台数は含まない。
東芝と富士通、VAIO(長野県安曇野市)が交渉を続けてきたパソコン事業の統合が、暗礁に乗り上げた。出資比率やリストラなどの条件が折り合わず、交渉は白紙に戻る見通しだ。最大の要因は、生産拠点の統廃合で妥結点が見いだせなかった点。今回の統合問題は東芝と富士通のパソコン事業の不振が発端だったが、両社が自社拠点の維持を譲らず、メリットを見いだしにくくなった。今後は振り出しに戻り、収益向上策を練り直すことになる。
「日本産業パートナーズ(JIP)が交渉を降りた時点で、この話はなくなったも同然だ」―。関係者は明かす。統合交渉は不採算事業を切り離したい東芝と富士通が、VAIOとその親会社であるファンドのJIPを巻き込んで始まった。
その後3社で持ち株会社を作り、その株式の過半数をJIPが持つという所まで交渉は進んだ。しかし、拠点などは維持しつつも、連結対象から外すべく、できる限り出資比率を引き下げたい東芝・富士通と、一足先にソニーから分離し独自路線を歩み始めたVAIOの間で溝が埋まらなかったと見られる。
合意時期としていた3月に入り、雲行きは怪しくなっていた。ある関係者は「3月中に決めたいが、条件がそろわず話が成立するか分からない」と吐露。これを裏付けるように、東芝の室町正志社長は事業方針説明会で「統合の方向性は一致しているが、条件面が集約できていない」と発言。目標合意時期を6月に後ろ倒した。
当初から3社統合のメリットが見えにくいと指摘されてきた中、唯一の統合効果が生産や調達の集約による製造コストの削減だった。ただその点も交渉が難航。メリットは東芝と富士通がパソコン事業を連結対象から外す、という点のみになってしまい、破談に至ったとみられる。
今後はそれぞれが独自で成長戦略を描かねばならない。VAIOはパソコンで尖(とが)った製品を展開。またロボットの受託生産事業など新規事業に力を入れ、パソコン偏重からの脱却を図っている。
もくろみの崩れた東芝と富士通は、戦略の練り直しを迫られる。すでに両社ともパソコン事業は分社済み。採算性が見えやすくなった分、リストラに踏み込まねばならない可能性も出てくるだろう。他の売却先を模索する道もあるが、買い手は見つかりにくいという声もある。両社にとって険しい道のりになりそうだ。
(文=政年佐貴恵)
新たに進出する2カ国では、現地企業に生産・販売・サービスなどビジネス全般を委託することで、最小限の投資で現地でタイムリーに供給する体制を整える。同様の仕組みで事業展開しているブラジルでは、経済全体は不透明だが、高所得者層向けのため計画通りに販売できているという。
一方、販売代理店を通じて15年10月から自社の製品を電子商取引(EC)サイトなどで販売している米国では、近く販売機種を切り替える。米国進出の第1弾であるクリエイター向けタブレットパソコン「Zキャンバス」に代わり、ビジネスマン向けノートパソコン「Z」と同「S13=写真」を発売する。日本と同様に、米国でも中長期でビジネスユースの販売を伸ばす。
同社のパソコン販売はビジネス向けを強化する戦略が奏功し、16年5月期は前期比2倍に回復した。17年5月期は前期比で若干増加する計画。ブランドビジネスを展開するブラジル、西欧、中近東の販売台数は含まない。
「日の丸パソコン」構想はなぜ頓挫したのか
日刊工業新聞2016年4月18日
東芝と富士通、VAIO(長野県安曇野市)が交渉を続けてきたパソコン事業の統合が、暗礁に乗り上げた。出資比率やリストラなどの条件が折り合わず、交渉は白紙に戻る見通しだ。最大の要因は、生産拠点の統廃合で妥結点が見いだせなかった点。今回の統合問題は東芝と富士通のパソコン事業の不振が発端だったが、両社が自社拠点の維持を譲らず、メリットを見いだしにくくなった。今後は振り出しに戻り、収益向上策を練り直すことになる。
ファンドが降板
「日本産業パートナーズ(JIP)が交渉を降りた時点で、この話はなくなったも同然だ」―。関係者は明かす。統合交渉は不採算事業を切り離したい東芝と富士通が、VAIOとその親会社であるファンドのJIPを巻き込んで始まった。
その後3社で持ち株会社を作り、その株式の過半数をJIPが持つという所まで交渉は進んだ。しかし、拠点などは維持しつつも、連結対象から外すべく、できる限り出資比率を引き下げたい東芝・富士通と、一足先にソニーから分離し独自路線を歩み始めたVAIOの間で溝が埋まらなかったと見られる。
見えない利点
合意時期としていた3月に入り、雲行きは怪しくなっていた。ある関係者は「3月中に決めたいが、条件がそろわず話が成立するか分からない」と吐露。これを裏付けるように、東芝の室町正志社長は事業方針説明会で「統合の方向性は一致しているが、条件面が集約できていない」と発言。目標合意時期を6月に後ろ倒した。
当初から3社統合のメリットが見えにくいと指摘されてきた中、唯一の統合効果が生産や調達の集約による製造コストの削減だった。ただその点も交渉が難航。メリットは東芝と富士通がパソコン事業を連結対象から外す、という点のみになってしまい、破談に至ったとみられる。
今後はそれぞれが独自で成長戦略を描かねばならない。VAIOはパソコンで尖(とが)った製品を展開。またロボットの受託生産事業など新規事業に力を入れ、パソコン偏重からの脱却を図っている。
リストラ視野
もくろみの崩れた東芝と富士通は、戦略の練り直しを迫られる。すでに両社ともパソコン事業は分社済み。採算性が見えやすくなった分、リストラに踏み込まねばならない可能性も出てくるだろう。他の売却先を模索する道もあるが、買い手は見つかりにくいという声もある。両社にとって険しい道のりになりそうだ。
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2016年6月2日