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東南アジア、「三菱」のタフなブランドをどう生かすか

日産・三菱自、車格ごとにすみ分けが進む可能性も
 「東南アジアで三菱車はタフというイメージが根付いている。しかも顧客の世代を超えて」。他乗用車メーカー幹部がこう評する三菱自動車の東南アジアの成功は、三菱商事抜きに語れない。

 三菱商事の自動車事業は海外で部品製造から車両組み立て、販売、販売金融など川上から川下まで手がける。中核拠点インドネシアでは1970年代に三菱車の生産販売統括会社を設立して進出。アフターサービス網を構築しながら、エンジンやプレス部品の工場、車体組立工場などを現地企業と合弁で立ち上げた。地場密着型のバリューチェーンで足場を固め、トラックを含めて三菱車のプレゼンスを高めた。

 カルロス・ゴーン日産社長も「三菱は東南アジアで当社より業績を上回っており素晴らしい仕事をしている」と認めるところだ。裏を返せば三菱グループの強固な事業基盤があるからこそ日産が苦戦してきたとも言える。

 三菱商事出身で三菱自副社長に内定している白地浩三常務執行役員は「三菱と日産のブランドを別々にしながら、販売網や修理・整備で何かシェアができるかもしれない」とシナジーを模索する。日産にとって三菱グループの東南アジアでの事業基盤は大きな魅力だ。

規模だけでなく競争力を伴うグループに


 一方で益子修三菱自会長は「車種をずいぶん減らしてきたがまだ見直さなければいけない」と話す。三菱自は選択と集中を進めスポーツ多目的車(SUV)と電動車両に経営資源を集中する方針をとってきたが、日産に傘下入りした後も「基本路線は変わらない」(益子会長)という。

 日産と三菱自は業務提携の柱の一つとして車両の相互供給を挙げており、今後車格ごとのすみ分けが進む可能性がある。例えばタイで三菱自が生産する小型車「ミラージュ」は非中核車格。そうした小型車や、逆に三菱車のタフなイメージの代表格であるピックアップトラックやSUVといった中核車格の扱いが、すみ分けを協議する際の焦点になる。

 一方で両社はそれぞれエコカー戦略の柱として電気自動車(EV)の開発に注力してきたが、今後EVの技術開発は日産に一本化し、中でも三菱自が得意とするプラグインハイブリッド車(PHV)の技術開発は三菱自が担当する方向だ。

 シナジーの具体化に向けた協議が本格化するが「(すでに資本関係にある)仏ルノーと独ダイムラーに続いて3回目だからお手の物。だからといって強制はしない」と日産幹部。トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)など年販1000万台クラブに肉薄する新たな自動車グループが誕生するが、規模だけでなく競争力を伴うグループになれるかは、シナジーをどう描き現実にするかで決まる。
日刊工業新聞2016年5月31日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
シナジーとお化けは出るぞ出るぞと言ってなかなか出ないものだ

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