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グリセリンはバイオディーゼル燃料の厄介者ではなくなる!?

福岡県が再利用に成功
 福岡県は廃食用油からバイオディーゼル燃料を製造する際に発生するグリセリンの再利用に成功した。グリセリンを含む水層と油層に分離し、し尿処理施設で使う脱窒剤として水層を、燃料として油層をそれぞれ利用する。今後、分離技術の普及や廃食用油の効率的な回収などによってリサイクルの促進を図る。

 廃食用油からバイオディーゼル燃料を製造する過程で約20%の副生グリセリンが発生する。しかし純度の低さなどから再利用することは少なく、産業廃棄物になることが多かったという。そこで福岡県は、福岡県リサイクル総合研究事業化センター(北九州市若松区)の共同研究プロジェクトで資源化を目指して実証を進めていた。

鎮痛薬用化合物のテバインを微生物で効率生産


日刊工業新聞2016年2月12日


 石川県立大学生物資源工学研究所の南博道准教授と京都大学大学院生命科学研究科の佐藤文彦教授らの研究グループは、鎮痛薬用化合物のテバインを高効率で生産する微生物を開発した。有機化合物を糖類のグルコースなどから生産できるよう代謝系を改良した微生物などを組み合わせており、麻薬への不正利用のリスクが低い。

 新たな微生物は、代謝系改良微生物と、テバインの原材料であるR―レチクリンを生産できるように改良した大腸菌に、R―レチクリンからテバインを合成する植物のケシの生合成酵素遺伝子を組み込んだ。

 特別な添加物は不要で、R―レチクリンからテバインの変換効率は60%。グルコースやグリセリンからは1リットル当たり2・1ミリグラムのテバインを生産でき、酵母を用いた場合の同0・0064ミリグラムを上回る。異なる菌株を組み合わせ、高度の発酵生産技術が必要なため、アヘンなど麻薬での不正利用は難しいという。

高活性触媒で有害廃水を出さず


日刊工業新聞2015年12月4日



 植物油を原料とする軽油代替燃料「バイオディーゼル(BDF)」。再生可能エネルギーとして期待される一方、有害廃水を副生するのが難点だ。東京都市大学工学部エネルギー化学科の高津淑人准教授らは前田道路と共同で、有害な廃水を出さず、触媒は道路舗装材として再利用できる燃料の生産技術の商用化に挑んでいる。東京オリンピック・パラリンピックに向けた施設整備で燃料や資材としての利用を目標に、2018年頃の実現を目指す。

 BDFは、一般に使用済み天ぷら油などの廃食油にメタノールと水酸化アルカリ触媒を加えて製造する。ただ化学反応の過程で触媒が溶けるため、有害な水酸化アルカリを濃縮したグリセリンと廃水を副生する。これらは現状、廃棄物として処理される。

 こうした問題を解決するため、高津准教授らは、市販の石灰石(酸化カルシウム)を使った溶けない触媒を開発した。ナノメートルサイズ(ナノは10億分の1)に粉砕した粒子で、これを使えば廃水が出ない。

 使用済み触媒はグリセリンと混ざった状態で残るが、グリセリンを燃料に燃やすことで道路舗装材として再利用できる。自治体関連施設ではこの触媒でBDFを生成し、同施設所有のバスを走らせるなど“地産地消”での利用を実証している。

 目標としているのは2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けた施設整備などでの活用だ。生成したBDFで整備用トラックを走らせ、使用済み触媒は競技場周辺の駐車場の舗装などでの利用を想定する。高津准教授は「環境に優しい技術で整備した場所として、オリンピックの開催時に紹介したい」と意気込む。

 課題は生成するBDFの品質向上。日本工業規格(JIS)の基準を満たし、外販できる体制にする必要がある。現状の蒸留技術でも達成できるが、蒸留装置は高価で、既存装置を利用した場合、価格は1リットル当たり250円に上る。「開発した技術を持続的に利用するには、同100円程度で生成できる手法を構築しなくてはいけない」(高津准教授)。現在、蒸留装置メーカー協力の下、安価な手法を模索している。
(文=葭本隆太)
日刊工業新聞2016年5月26日
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
バイオディーゼル燃料を廃食用油から製造する過程では必ず副生グリセリンが発生する。このグリセリンを何らかの形で商品化できれば、結果としてバイオディーゼル燃料の製造費が安くできる。廃食油からのバイオ燃料の開発を試みた者は常にこの副生グリセリンの処理に頭を悩ましてきた。実は筆者も2000年前半にNEDOの委託プロジェクトで経験したことがある。今回、福岡県がバイオ燃料副生物のグリセリンの資源化に成功したことは、廃食用油の処理に困っている他の行政体にとって朗報となることを期待したい。

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