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FA標準に変化の波。なぜトヨタはドイツの通信規格を採用したのか

配線半減、通信速度も落ちない。トヨタ向け設備納入業者は対応必須
FA標準に変化の波。なぜトヨタはドイツの通信規格を採用したのか

トヨタが採用するFAネットワーク規格「イーサキャット」

 ITの分野では海外大手におされがちな日本勢。一方、FA(工場自動化)分野では高い世界シェアを誇る企業が多い。ただ、IoT(モノのインターネット)の普及によりITとFAの世界がつながると、FAの世界はオープンな技術にさらされる。日本企業は新たな激しい競争の波に洗われることになる。

 4月、FA業界の変化を象徴する発表があった。トヨタ自動車が自社で使うFAネットワークの標準規格に「イーサキャット」を採用すると決定したことだ。イーサキャットはFA機器メーカーの独ベッコフオートメーションが開発してオープン化した。

 日本の競合勢は「影響は大きい」と警戒感を隠さない。工作機械やプレス機械、ロボット、プログラマブルコントローラーといったFA機器を大量に調達するトヨタ。今後、トヨタに納める生産設備は基本的にイーサキャット対応の通信機器を搭載する必要がある。

 これまでトヨタは日本電機工業会が策定した「FLネット」を標準として使ってきた。FLネットはメーカーが、ほぼ日本勢に限られ新技術への対応も進みにくかった。

 イーサキャット採用の決め手は省配線技術。通信と電力供給を一つのケーブルで行う「イーサキャットP」という新規格の仕様策定が進んでおり、実現すれば配線を半減できる。IoTへの対応も採用を後押しした。「今までのネットワークはデータが増えると通信速度が落ちるが、イーサキャットは落ちない」(大倉守彦トヨタ先進技術開発カンパニー工程改善部長)と説明する。

規格乱立、合従連衡の動き激しく


 FAネットワークの通信規格には、ほかにも「CCリンク」や「メカトロリンク」、「プロフィバス/プロフィネット」「デバイスネット」などがある。それぞれ三菱電機安川電機、独シーメンス、米ロックウェルといったFA業界の大手が開発した通信技術をオープン化した。

 こうしたFAネットワークの世界でも、IoTをにらんでか合従連衡の動きが激しくなってきた。三菱電機系のCCリンク協会は4月、米OPCファウンデーションと覚書を交わした。

 OPCファウンデーションが運営する通信規格「OPC―UA」は、ドイツのIoT施策「インダストリー4・0」で標準の通信規格に指定された。CCリンクには同様に上位のシステムと連携する通信規格「SLMP」がある。CCリンク協会は顧客の相互運用性と利便性を重視してOPCと提携した。

 いずれはどのFAネットワークもシームレスにつながる世界がやってくる。FA機器メーカーは何で差別化するかを今から探る必要がある。
日刊工業新聞2016年5月25日
八子知礼
八子知礼 Yako Tomonori INDUSTRIAL-X 代表
日本のFAは世界の先端を走ってきたため、独自規格でかなりのことがやれる世界観を作ってしまった。ところが今はオープンコネクションの時代。IVI (Industrial Valuechain Initiative) などで相互につながる規格を整備して独自路線からの脱却を目指す最中ではあるが、依然として産業界とFA業界とIT業界がそれぞれ距離感があることが、欧米の取り組みとは異なるところ。融合した取り組みがどこから始まるのかに注目が集まる。

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