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家電量販の業績、価格競争の緩和で収益改善

ネット通販との差別化がカギに
家電量販の業績、価格競争の緩和で収益改善

東京・秋葉原

 大手家電量販店が、価格競争の緩和を背景に利益を拡大している。一時期、消費増税の反動やインターネット通信販売の低価格戦略に引き込まれる格好で収益を悪化させたが、回復基調にある。「メーカーも過度なシェア獲得競争をしなくなった」(遠藤裕之ケーズホールディングス社長)ことも価格競争沈静化の一因だ。家電量販店の収益体質改善は当分続きそうな気配だが今後、ジワリと拡大するネット通販に対し、差別化やすみ分けをどう図るかが課題となりそうだ。

安値攻勢から脱却


 2016年3月期連結決算の発表会見などで、大手家電量販店の首脳や幹部の表情は明るかった。最大手のヤマダ電機の営業利益は前期比2・9倍、エディオンは同58・7%増、ケーズホールディングス(HD)も同17・3%増と大きく利益を伸ばしたからだ。

 数年前まで家電量販店業界は、ネット通販の安値戦略に翻弄(ほんろう)されていた。メーカーがシェア獲得に血道を上げ、販売促進費を大量に投入。この販促費が値引きの原資に回る一方、メーカーから仕入れ数量に応じて支払われる数量リベートを獲得しようと、一部家電量販店が大量に仕入れたりした商品がネット通販業者に流れ、ネット業者の安値攻勢を勢いづかせた。

 ネット業者は店舗を持たず、コストがかからないから安く売れる。店舗を持つ家電量販店もネット価格に対抗しようと、安値をつけ応戦するという悪循環に陥った。ヤマダ電機が過度にネット価格に対応した結果、業績が悪化したのは記憶に新しいところだ。

 しかし、16年3月期の決算で大手首脳が異口同音だったのは「高機能、付加価値商品の販売が好調」(久保允誉エディオン会長兼社長)という発言。価格競争という言葉は聞かれなかった。

 かつては「トップの家電量販店(ヤマダ電機)の価格をベンチマークにしていた」(ある家電量販店関係者)というが、そのヤマダ電機自体、「自社競合の発生」(岡本潤ヤマダ電機取締役)により、16年3月期は不採算店60店を閉鎖。今後も急激な店舗の拡大をせず、過度な安売り競争に参戦しない方針に転換している。むしろ、採算の良い白物家電などの売り場を拡大しているという。

来店客数増が課題


 大手メーカーが業績悪化から過度なリベートや販促費を投入できなくなったことも、価格秩序を回復させた要因だ。メーカーがリベートを抑制し、小売業側が過度な安売り競争を止めたため、業界は収益を悪化させる価格競争から脱出、その結果が16年3月期決算に表れた。しかし、各社のトップライン(売上高)に目を転じると、必ずしも手放しで喜べない伸びだ。

 安売り競争から脱却し高機能商品、付加価値商品の販売を増やしたことで粗利益率は改善している。一方で、来店客数はそれほど増えていない。つまり、客単価を上げることで改善した決算といえる。ネット通販からは「ビックリするような低価格は出なくなった」(遠藤ケーズHD社長)というが、ジワリと売り上げシェアは拡大しているとみられる。店舗ネットワークを持つ家電量販店にはネットへの流出を食い止める、店舗を持つ強みを生かす施策が17年3月期以降、必要となりそうだ。
(文=森谷信雄)
日刊工業新聞2016年5月24日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
家電流通業界は過度な価格競争が一段落しています。大手メーカー2社がガタガタしていて、販促費を大量投入したシェア奪取ができなくなったことが一因としてあるという声が家電量販店業界では聞かれます。しかし、だからといってネット通販と家電量販店の競争が終焉したわけではありません。家電量販店は〝ウェブルーミング〟などを駆使し店舗を効果的に活用してネットでも収益を上げるということ事業構造の改革が今後ますます必要になってくるのはいうまでもありません。

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