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天然ガス車は水素社会への“つなぎ役”になれるか

中国地方研究会がリポート
天然ガス車は水素社会への“つなぎ役”になれるか

欧州メーカーは天然ガスとガソリンを併用する「バイフューエル車」の生産販売に積極的

 中国地方の自動車部品メーカーなどで作る研究会が、天然ガス自動車(NGV)に関するリポートをまとめた。日本ではエコカーとしての注目度が低いNGVだが、海外では普及が進んだ国もあり、二酸化炭素(CO2)排出量の削減には有効と指摘。将来の水素社会に向けたインフラ整備の前に、いったんメタンを利用する社会を構築した上で「再生可能エネルギーの拡大と歩調を合わせて水素に展開することが現実的」と結論づけている。

 「電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の普及は、再生可能エネルギーと一緒でなければ意味がない。待ったなしのCO2削減をやり遂げるには、むしろNGVが有効だ」。研究会のコーディネーターを務め、リポートをとりまとめた畑村エンジン研究事務所(広島市南区)の畑村耕一代表は強調する。

天然ガスはその分子構成から、ガソリンに比べCO2の排出量を20―25%減らせる特徴がある。自動車に積むと高圧タンクの搭載スペースが必要だが、エンジンの基本構造は変える必要がなく、開発費が安くすむ。シェールガス革命により安価になり、南米や南アジアなどの天然ガス産出国では100万台以上普及した国もある。

デメリットは


 一方デメリットとしては、通常の車に比べ5000―1万ドル価格が上がることがある。またメタンは高圧をかけても圧縮するのに限界があり、100リットルのタンクを積んでも航続距離が400キロメートルくらいにとどまる。日本では燃料インフラ整備も課題になる。

 リポートでは、こうした特徴においてもNGVの環境性能はEVやFCVに引けを取るものではないと指摘する。目玉はNGVの環境負荷を独自に試算した箇所。燃料の採掘から運転までの「ウェル・ツー・ホイール」ベースでのCO2排出量は、ハイブリッド技術と組み合わせた圧縮天然ガス(CNG)自動車の場合、走行1キロメートル当たり72グラムとなる。原発が止まった2012年の電源構成に基づくEVの同77グラムや、天然ガス改質による水素を使った場合のFCV(同78グラム)に比べても、CO2排出量は少ない。

 エンジン単体で見るとメリットはほかにもある。メタンはガソリンに比べ「ノッキング」という異常燃焼を起こしにくいため圧縮比を高められる。ひいては「エンジンの熱効率を5%くらいは上げられるかもしれない」(畑村さん)という。

元マツダの有名エンジニアがとりまとめ


 畑村さんは元マツダの著名なエンジン技術者。リポートは、中国経済産業局による地場産業支援事業のメニューの一環として3年間行った研究会活動の成果をとりまとめた。

 畑村さんは「日本ではユーザーのメリットが明確でないため自動車メーカーも乗り気とはいえないが、ドイツではダイムラーやフォルクスワーゲンが熱心に取り組んでいる。本格的な水素社会が来る前にもCO2を減らさなければならず、NGVの普及は現実的な方策」と訴えている。
(文=広島・清水信彦)
日刊工業新聞2016年5月20日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
日本ではNGVの注目度は低いが、欧州では意外と力を入れる動きもある。ディーゼル車とガソリン車をNGVに切り替えると、大きなガス需要が生まれる。エネルギー大手のエーオンは、税制上の優遇措置も設けるよう働きかけたりしている。ただガソリン車やディーゼル車に比べ割高で保険料も高額。日本では昔から水素自動車の開発に力を入れてきたマツダ。その元エンジニアが中心となって報告書をまとめるのは自然な流れだが、つなぎ役もなかなか難しだろう。

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