船舶のプロも注目。海事業界の課題を解決する「COGES」とは
「その手があったか・・・」
4月に開催された国際海事展SEA JAPAN 2016でGEが披露した最新の船舶用推進技術「COGES(Combined Gas Turbine Electric & Steam)」を目にした船舶業界のプロたちが漏らしたこんなつぶやきに、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の担当者たちは確かな手ごたえを感じた。
船舶業界では“破壊的イノベーション”として迎えられたものの、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた超高効率な発電方式は、電力業界で実証されてきたもの。
そしてそのメインエンジンとなるガスタービンは、GEが誇る航空機エンジン技術を転用したもの。
船舶業界はいま、環境保全(コスト要因)と経済性の向上(利益率アップ)という、両立の難しい課題への対応に迫られている。
「IMO Tier III」に代表される国際規制において、温室効果ガスや大気汚染物質の排出に対する排出制限は著しい強化の一途だ。
規制に沿わない船舶は対象海域の航海ができないことを意味するため、多くの海運事業者はビジネスチャンスを失う危機と隣あわせにある。海事業界は、これまでの延長線上ではなく抜本的な技術イノベーションが必要な局面にある。
従来の船舶の推進技術の主流はディーゼルエンジン。しかし今日のディーゼルエンジンはNOx(窒素酸化物)排出量が多いことから、排ガスを浄化するための設備(SCR:選択触媒還元)や化学薬品への追加投資を避けられない。
また、今日のディーゼルエンジンはオイル燃料を使用するため、燃料中の硫黄分濃度も問題になっている。IMO規制では、2017年には現在の半分以下の濃度に抑えることが義務付けられるため、これまでの延長線上で解決しようとするならば、硫黄分をオフセットするための策をこれまで以上に講じなければならない。
国際海運は経済動向の影響を受けやすく、さらに船舶は投機対象になるので、供給過剰に陥りやすい。海運マーケットは変動幅が大きいため、1航海あたりの利益率向上は大命題。
こうした課題の解決の鍵として期待されているのが、環境負荷の高いオイル燃料からクリーンなガス燃料への転換、そして船舶の設計やレイアウトの自由度を与えてくれる小型な推進システムにになる。
「既存システムで環境規制をすべてクリアするには、かなり高いハードルがある。引き続きオイル燃料を使い続けることも不可能ではないが、その場合、排ガスを浄化するための大型でコストのかかる追加設備が必要になる」(GEグローバル オフショア&マリン・シニアセールスディレクターの村上徹氏)。この事実が、オイルからガス燃料へのシフトが進む理由だ。
今日の船舶業界の主流であるディーゼルエンジンにおいても、重油に加え天然ガス(LNG)も燃料として使用できるデュアル・フューエル化が進んでいる。
しかしそれでもシリンダーオイルや着火用パイロットオイルが必要になるうえ、デュアル・フューエルエンジンは未燃焼のメタンガスを排出してしまう難点がある。特に、メタンガスはCO2の25もの温室効果をもつことから、その排出はメタンスリップ(※1)と呼ばれ問題視されている。
対してCOGESは主にクリーンな燃料である天然ガス(LNG)を使用するため、硫黄分をほとんど含みません。必要に応じてマリンガスオイル(MGO)を燃料にすることも可能だが、LNG、MGO使用時のいずれの場合においてもNOx排出量は最新のIMO Tier3規制値を余裕で下回るため、排ガス浄化のための触媒設備(SCR)や薬品はいっさい必要ない。
こうして国際的な環境規制を先取りできたのは、延長線上ではなく抜本的な発想で創り上げた技術だからこそ。
「ディーゼルエンジンの悩みは、大型で各機関を分散化できないことにある。大型船のエンジンなら、高さで言うと3~4階建てのビルぐらいある。COGESであれば、ぐっと小型化・軽量化できる。実はこれが、船舶の収益性に効いてくる」と村上氏。
航空機エンジン転用型のガスタービンなどから構成されるCOGESは、低速ディーゼルエンジンと較べ設置体積30%、重量80%もの小型軽量化を実現。同型の船なら積載量を増やすこと、同一積載量ならより小型化することが可能。18,000TEU(※2)のコンテナ船のケースで試算すると、カーゴ積載量を7%増やすことができ、その収益増は年間19億円以上。クルーズ船であればVIP客室数を増やせるなど、収益拡大に直接的なインパクトが期待できる。
また、現状のディーゼルエンジンは大型であるがゆえ、機関室のある船尾部分をスリム化できない。これは流体抵抗を減らしにくく、速度や燃料効率の点で不利益だ。
COGESでは、メイン駆動となるガスタービンの大きさは飛行機の主翼下に見るあのエンジンのエンクロージャー(外側のケース)を除いたサイズで軽量なので、船体上部に設置することも可能。エンジンや付帯機関のレイアウトを自由に行えるため、船尾を抵抗の少ない形状にすることもできる。これは航海時間の短縮、燃料コストの削減など、さまざまな経済的効果を生んでくれる大きなプラス要素だ。
※1 メタンスリップ:未燃焼のメタンガスが大気中に排気されること。メタンは二酸化炭素に比べて地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)が25倍高く、わずかな量でも環境上大きな問題となる。
※2 TEU:船舶の積載能力を表す単位。1TEU=20フィートコンテナ1個分(約33立方メートル)にあたる。
4月に開催された国際海事展SEA JAPAN 2016でGEが披露した最新の船舶用推進技術「COGES(Combined Gas Turbine Electric & Steam)」を目にした船舶業界のプロたちが漏らしたこんなつぶやきに、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の担当者たちは確かな手ごたえを感じた。
船舶業界では“破壊的イノベーション”として迎えられたものの、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた超高効率な発電方式は、電力業界で実証されてきたもの。
そしてそのメインエンジンとなるガスタービンは、GEが誇る航空機エンジン技術を転用したもの。
船舶業界が直面する二大課題
船舶業界はいま、環境保全(コスト要因)と経済性の向上(利益率アップ)という、両立の難しい課題への対応に迫られている。
「IMO Tier III」に代表される国際規制において、温室効果ガスや大気汚染物質の排出に対する排出制限は著しい強化の一途だ。
規制に沿わない船舶は対象海域の航海ができないことを意味するため、多くの海運事業者はビジネスチャンスを失う危機と隣あわせにある。海事業界は、これまでの延長線上ではなく抜本的な技術イノベーションが必要な局面にある。
従来の船舶の推進技術の主流はディーゼルエンジン。しかし今日のディーゼルエンジンはNOx(窒素酸化物)排出量が多いことから、排ガスを浄化するための設備(SCR:選択触媒還元)や化学薬品への追加投資を避けられない。
また、今日のディーゼルエンジンはオイル燃料を使用するため、燃料中の硫黄分濃度も問題になっている。IMO規制では、2017年には現在の半分以下の濃度に抑えることが義務付けられるため、これまでの延長線上で解決しようとするならば、硫黄分をオフセットするための策をこれまで以上に講じなければならない。
船舶の排出ガスに対する国際規制、国土交通省「海事レポート2015」をもとにGEが作成
国際海運は経済動向の影響を受けやすく、さらに船舶は投機対象になるので、供給過剰に陥りやすい。海運マーケットは変動幅が大きいため、1航海あたりの利益率向上は大命題。
こうした課題の解決の鍵として期待されているのが、環境負荷の高いオイル燃料からクリーンなガス燃料への転換、そして船舶の設計やレイアウトの自由度を与えてくれる小型な推進システムにになる。
国際規制を先取りする環境性能
「既存システムで環境規制をすべてクリアするには、かなり高いハードルがある。引き続きオイル燃料を使い続けることも不可能ではないが、その場合、排ガスを浄化するための大型でコストのかかる追加設備が必要になる」(GEグローバル オフショア&マリン・シニアセールスディレクターの村上徹氏)。この事実が、オイルからガス燃料へのシフトが進む理由だ。
今日の船舶業界の主流であるディーゼルエンジンにおいても、重油に加え天然ガス(LNG)も燃料として使用できるデュアル・フューエル化が進んでいる。
しかしそれでもシリンダーオイルや着火用パイロットオイルが必要になるうえ、デュアル・フューエルエンジンは未燃焼のメタンガスを排出してしまう難点がある。特に、メタンガスはCO2の25もの温室効果をもつことから、その排出はメタンスリップ(※1)と呼ばれ問題視されている。
対してCOGESは主にクリーンな燃料である天然ガス(LNG)を使用するため、硫黄分をほとんど含みません。必要に応じてマリンガスオイル(MGO)を燃料にすることも可能だが、LNG、MGO使用時のいずれの場合においてもNOx排出量は最新のIMO Tier3規制値を余裕で下回るため、排ガス浄化のための触媒設備(SCR)や薬品はいっさい必要ない。
こうして国際的な環境規制を先取りできたのは、延長線上ではなく抜本的な発想で創り上げた技術だからこそ。
船尾形状のスリム化のイメージ図=GEジャパン
“レイアウトフリー”がもたらす収益増効果
「ディーゼルエンジンの悩みは、大型で各機関を分散化できないことにある。大型船のエンジンなら、高さで言うと3~4階建てのビルぐらいある。COGESであれば、ぐっと小型化・軽量化できる。実はこれが、船舶の収益性に効いてくる」と村上氏。
航空機エンジン転用型のガスタービンなどから構成されるCOGESは、低速ディーゼルエンジンと較べ設置体積30%、重量80%もの小型軽量化を実現。同型の船なら積載量を増やすこと、同一積載量ならより小型化することが可能。18,000TEU(※2)のコンテナ船のケースで試算すると、カーゴ積載量を7%増やすことができ、その収益増は年間19億円以上。クルーズ船であればVIP客室数を増やせるなど、収益拡大に直接的なインパクトが期待できる。
また、現状のディーゼルエンジンは大型であるがゆえ、機関室のある船尾部分をスリム化できない。これは流体抵抗を減らしにくく、速度や燃料効率の点で不利益だ。
COGESでは、メイン駆動となるガスタービンの大きさは飛行機の主翼下に見るあのエンジンのエンクロージャー(外側のケース)を除いたサイズで軽量なので、船体上部に設置することも可能。エンジンや付帯機関のレイアウトを自由に行えるため、船尾を抵抗の少ない形状にすることもできる。これは航海時間の短縮、燃料コストの削減など、さまざまな経済的効果を生んでくれる大きなプラス要素だ。
※1 メタンスリップ:未燃焼のメタンガスが大気中に排気されること。メタンは二酸化炭素に比べて地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)が25倍高く、わずかな量でも環境上大きな問題となる。
※2 TEU:船舶の積載能力を表す単位。1TEU=20フィートコンテナ1個分(約33立方メートル)にあたる。