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どうなる地銀の業績。前期は過去最高も一転、マイナス金利でカジ取り厳しく

運用の多様化で対応を。さらに経営の効率化に向け再編がさらに加速か
どうなる地銀の業績。前期は過去最高も一転、マイナス金利でカジ取り厳しく

寺澤横浜銀頭取㊧と石井東日本銀頭取

 地方銀行の業績が転換期を迎える。2016年3月期は上場地銀単体の利益合計が過去最高を更新するなど好調だった。一方で17年3月期は日銀のマイナス金利政策導入の影響などにより、収益環境が悪化する見込み。連結当期利益2ケタ減を見込む銀行も多い。経営の効率化に向け、再編がさらに加速しそうだ。

 全国地方銀行協会の寺沢辰麿会長(横浜銀行頭取)は18日の記者会見で地銀の16年3月期決算について「上場63行単体の合計は、経常利益、当期利益とも過去最高。ただ市場金利は下がっており、資金収益は落ち込んでいる。マイナス金利の導入で一段と金利は低下している」と分析した。

 17年3月期見通しも「マイナス金利の影響が、より大きく出てくると見込まれる。経常利益で20%を超えるマイナス。当期利益も19%をちょっと下回るマイナスと見込まれる」と懸念する。一方で「GDP統計では、設備投資が落ちても伸びてもいない。マイナス金利の影響を語るのは、まだ早すぎるのでは」と今後を注視する。

【東日本】地域と連携、中小向け強化


 北海道、東北、首都圏など東日本地域の主な地銀の16年3月期は、低金利競争の激化や日銀のマイナス金利政策の導入で、貸出金利回りが低下し資金利益が減少した銀行が多かった。一方で債券売買や法人向け役務収益が堅調だった。

 ただ、異次元の金融緩和やマイナス金利政策は続くとみられ、千葉銀行の佐久間英利頭取は「17年3月期に与えるインパクトは大きい」とし、当期利益単体のベースで20億円の減益と試算する。

 10月に常陽銀行と経営統合する足利ホールディングスの松下正直社長は「貸出金の量的増加や有価証券運用の多様化などを図る」方針だ。

 一方、横浜銀行の寺沢頭取は16年3月期の貸出金期末残について「設備投資が15%伸び、そのうち中小企業の占める割合は9割だ」としている。埼玉りそな銀行の池田一義社長は「自治体や地域と連携しながら、埼玉県経済の発展に寄与していきたい」とし、自治体の施策を周知しながら、中小向け貸し出しに注力する。

【中部】収益力高める動き加速


 マイナス金利は、低迷が続く中部地方の貸出金利をさらに押し下げる圧力になっている。コスト削減やビジネスマッチングなどの手数料ビジネスへのシフトで収益力を高める動きが加速しそうだ。

 岐阜県が地盤の十六銀行はマイナス金利への対応策として、預金調達の費用削減に向け譲渡性預金の取り込み抑制に動いている。

 結果として16年3月期は期末預金残高が0・6%減少。村瀬幸雄頭取は「できる限り素早く対応できた」と語る。静岡銀行の16年3月期は外貨建ての貸出が好調で、貸出金利息が7期ぶりに前期を上回り、業務粗利益は6期ぶりに増益だった。期末の円建て貸出金利は予定より下がった。

 北陸銀行は16年4月から3カ年の新中期経営計画を策定したが、マイナス金利を踏まえ19年3月期の当期利益目標を16年3月期実績比15%減の140億円に抑えた。庵栄伸頭取は北陸地域の景況感を「今後3年間は緩やかに進むと思う」と予想しつつも「金融業界全体は厳しい」と見る。

【近畿・中国・四国】新規融資の伸長カギ


 マイナス金利政策について池田泉州ホールディングスの田原彰取締役が「設備投資への需要喚起効果は薄い。逆に住宅ローンなどの借り換え要請がボディーブローで効いてくる」と話すなど総じて否定的だ。17年3月期について京都銀行の豊部克之専務は「名古屋や大阪南部へ新規出店を計画している」と広域型店舗戦略を進め、製造業中心に幅広く新規貸し出しを伸ばす考えだ。

 ただ広島銀行の池田晃治頭取が「円高は痛手で株安も資産家層の消費マインドを低下させる」と強調するなど先行きを不安視する声も。伊予銀行は15年度からの3カ年中期経営計画の目標値を下方修正。大塚岩男頭取は「計画実行を前倒しし、多様なサービス展開で目指す収益を確保する」と語った。

【九州】構造改革、さらに展開】


 17年3月期は福岡銀行の当期利益(単体)が減益の見通し。西日本シティ銀行は実質業務純益(単体)と当期利益(連結)の減益を予想する。福岡銀行は信用コストの発生が見込まれ、西日本シティ銀行は16年3月期にあった子会社からの臨時配当がなくなり減益となる。

 福岡、親和、熊本の3行を傘下に置くふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の16年3月期連結当期純利益は447億円と4期連続で最高益を更新。柴戸隆成社長は「本年度は、さらに厳しい環境が予想される。構造改革をさらに展開させる」とし、西日本シティ銀行の谷川浩道頭取も「国内外の景気が不透明で金融政策も読みづらい。これまで以上に厳しさが増す」といずれも厳しいかじ取りが迫られそうだ。
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
マイナス金利適用の直接の影響より、イールドカーブのフラット化による資金収益の減少が響く。地域の資金需要が乏しく預貸率が相対的に低い地域金融機関は、融資を増やすことも困難で、合従連衡等による経費率の削減や、オルタナティブ投資の増額など運用の多様化で対応するしかない。

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