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<三菱自不正>スリーダイヤとフランス急接近!?

日産にとって御三家は有事の後ろ盾か、それとも「三菱」の冠を外すか
<三菱自不正>スリーダイヤとフランス急接近!?

左からMUFGの平野社長、三菱重工の宮永社長、三菱商事の垣内社長

 三菱グループ140年余の歴史の中で引き継がれてきた経営の根本理念「三綱領」。その精神、価値観は三菱グループ企業活動の指針だ。三本柱の一つ「処事光明」はフェアプレーに徹することを意味しているが、三菱自動車は燃費表示不正という最悪の形で裏切った。筆頭株主の三菱重工業幹部は「追加支援の理由がない」と憤りを隠さない。

 三菱自の社外取締役を務める三菱重工の宮永俊一社長の目に、日産自動車との提携は至極当然に映ったことは想像に難くない。たこつぼ組織を破壊し、自前主義から脱却することは、宮永社長の経営改革論に合致する。日立製作所との火力発電事業統合、独シーメンスとの製鉄機械事業統合はその象徴だ。

 グローバル企業をめぐるM&A(合併・買収)はタイミングがすべて。機動的で素早い決断を求められる。経営者の”胆力“が勝敗を分ける。

 2014年に勃発した仏アルストムのエネルギー事業をめぐる買収合戦。三菱重工は米ゼネラル・エレクトリック(GE)に対抗すべく、ライバルであるシーメンスと共同戦線を張るという離れ業を演じ、宮永社長自らフランス大統領府に乗り込み直訴した。その姿は、電光石火で三菱自との提携を決めた日産のカルロス・ゴーン社長と重なる。

ルノーも日本を代表する大財閥と接点


 経営不振に陥った三菱自を三菱重工、三菱商事、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の御三家が支えてから10年。コーポレートガバナンスコードが導入されるなど、企業を取り巻く環境は変化した。三菱重工と三菱自の取引はカーエアコンやターボチャージャー(過給器)など年間わずか200億―250億円規模とみられ、合理的説明のつかない支援は投資家軽視を問われる。

 日産への第三者割当増資が完了すると三菱グループ3社の持ち株比率は相対的に低下し、三菱自は三菱重工の持分法適用関連会社から外れる見通しだ。ただし、17年6月末日までの間、グループ3社は直接・間接に保有している三菱自の普通株式を譲渡、処分しないことになっている。

 日産にとって三菱グループ3社が主要株主に名を連ねていることは有事の際の後ろ盾としては極めて大きな存在であり、フランス政府が株式を握るルノーにとっても日本を代表する大財閥との接点になる。日産は今後、三菱グループ3社との間で、三菱自株の継続保有や提携を支持する内容の株主間契約を締結する方向だ。

 三菱重工は今、経営不振に陥った仏アレバの原子炉事業子会社であるアレバNPへの出資交渉を進めている。三菱自は仏自動車大手プジョー・シトロエングループ(PSA)とも業務提携している。原子力、自動車―。“スリーダイヤ”を介し、日本とフランスの距離が急接近しているのは、単なる偶然なのだろうか―。

※日刊工業新聞では「三菱自不正の衝撃」を連載中
日刊工業新聞2016年5月19日
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
2004年8月に、我々のファンドが投資した後、私が事業再生委員長として提言し交渉入りしたのが日産との軽自動車分野の協働だ。その背景には、低迷する国内工場の稼働率向上の必要性があった。当時は三菱重工首脳は否定的だったが、12年の時を経てこれが救世主になった。三菱3社の株主利益を考えるとこれ以上の支援は不可能であり、いずれは三菱の冠を外して日産傘下で生き残りを図るべきだろう。

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