「ものづくり補助金」申請数が過去最多!採択待ちが工作機械受注に影響も
6月上旬にも採択企業を決める見通し
中小企業庁、全国中小企業団体中央会(全国中央会)は、中小企業・小規模事業者を対象とした「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金(ものづくり補助金)」の採択企業を6月上旬にも決める見通しだ。製造業の設備投資だけでなく、商業やサービス分野の生産性向上や新たな販売手法の開発などにも活用できることから幅広い業種・業態の関心を集めている。一方、工作機械業界では、ユーザーの採択待ちによる受注停滞も目立つ。
現在、4月中旬に募集を締め切った2015年度補正予算分の審査を行っている。今回は約2万4000件の申請があり、1回当たりの募集では申請数が過去最多となった。同補助金は革新的で過去にない製品やサービスの開発、生産工程の改善に取り組む中小企業の設備投資などを支援するものだ。開始当初は製造業を対象としたが、13年度補正予算で実施した分からは商業やサービス分野に支援の対象を拡大した。
さらに今回からは、1件当たり1000万円を上限とする従来の一般型に加え、IoT(モノのインターネット)や最新モデルを用いた設備投資で大幅な生産性向上に取り組む場合は補助上限額を同3000万円(補助率3分の2)に引き上げて支援するタイプも用意した。
中小企業からは「(自分たちが申請しようとする設備投資が)IoTを用いたものに該当するか」などの問い合わせが多く寄せられ、反響が大きかった。実際、関係者からは補助上限額が3000万円のタイプに「予想以上に申し込みが多かった印象だ」との声もあり、中小企業が同補助金を活用して設備投資に前向きに取り組もうとする姿勢がうかがえる。
もともとは緊急経済対策として始まった同補助金事業だが、今では1000億円以上の政府予算がつぎこまれる中小企業支援の目玉施策として定着しつつある。一部で「ばらまきにならないか」と疑問視する声もあるが、過去の倍率は2・3―3倍と決して低くはなく、誰もが受けられるわけではない。
審査のポイントは革新性と事業性があるかどうかで、単なる設備更新では認められない。地域審査のあと全国レベルでの審査があり、3段階の書面審査を通過しなければならない。また同補助金を受けてから5年間は、“試作品を作った”など事業化に向け、どこまで進んでいるか報告が義務付けられている。
12年度補正予算での採択企業のうち、約25%が1年目で事業化に成功し、その事業で売り上げが立ったという。中小企業庁は、同補助金を利用した企業の半数が5年の間にその事業で売り上げを立てられることを目標とする。それにより、同補助金が一定の成果を上げたかどうかを判断する。
同補助金はこれまで予算の使い残しはなく、人気の高い施策だ。全国にある中小企業が新たな製品・サービスの開発や生産工程の改善などにより経営基盤を強化し、競争力を高めていければ政府が掲げる地方創生にもつながる。熊本地震の復旧・復興費用を柱とする補正予算には盛り込まれなかったが、自民党の議員からは「地元での人気は高い」と継続を望む声もある。今後、内需拡大を主眼として景気・経済対策が浮上すれば、継続して予算に盛り込まれる可能性が高い。
これまで製造業に加え商品・サービス業にも対象を広げ、複数企業が共同で進める取り組みでも利用可能にし、補助上限額を拡大した新タイプを追加するなど、同補助金は利用する中小企業のニーズに応え中身を変えてきた。今後も、中小企業にとってより使い勝手の良いものにしていくとともに、採択された企業はしっかりと成果を発揮することが求められる。
ものづくり補助金を使って導入する代表的な生産設備が工作機械だ。工作機械ユーザーの反応はよく、メーカー大手のオークマは「申請件数は期待通りだ」(営業部)とユーザーの強い投資意欲を感じている。同補助金の中でも、IoT活用を前提にした、補助上限額3000万円の「サービス・ものづくり高度生産性向上支援」への「関心が高い」(同)という。
ただ、足元は補助金が受注活動の“足かせ”になっている。日本工作機械工業会(日工会)がまとめた4月の工作機械受注実績(速報値)は、32カ月ぶりに1000億円を割り込んだ。1000億円は、業界の健全性を判断する目安となる額だけに穏やかではない。中国経済の減速や資源安による世界経済の不透明感、為替相場の円高基調、北米の設備需要の一服感、期末明けなど1000億円割れの理由は諸々考えられるが、内需に限れば、同補助金の採択待ちによる買い控えによるところが大きい。この補助金の採択待ちにより、「(補助金の対象である)中小・小規模企業がなかなか投資に動かない」(メーカー営業担当者)と投資活動が滞っている。
もっぱら、大手、中堅ユーザーの設備需要に受注が支えられている側面もある。同補助金は、6月に支給の可否が決まるため、同月いっぱいはこうした状況が続きそうだ。今回の同補助金の効果は秋口まで3カ月ほど続くとみられる。補助金後の内需がどうなってしまうのか。今は楽観視できない。
(文=湯原美登里、六笠友和)
IoTも対象に。約2万4000件が申請
現在、4月中旬に募集を締め切った2015年度補正予算分の審査を行っている。今回は約2万4000件の申請があり、1回当たりの募集では申請数が過去最多となった。同補助金は革新的で過去にない製品やサービスの開発、生産工程の改善に取り組む中小企業の設備投資などを支援するものだ。開始当初は製造業を対象としたが、13年度補正予算で実施した分からは商業やサービス分野に支援の対象を拡大した。
さらに今回からは、1件当たり1000万円を上限とする従来の一般型に加え、IoT(モノのインターネット)や最新モデルを用いた設備投資で大幅な生産性向上に取り組む場合は補助上限額を同3000万円(補助率3分の2)に引き上げて支援するタイプも用意した。
中小企業からは「(自分たちが申請しようとする設備投資が)IoTを用いたものに該当するか」などの問い合わせが多く寄せられ、反響が大きかった。実際、関係者からは補助上限額が3000万円のタイプに「予想以上に申し込みが多かった印象だ」との声もあり、中小企業が同補助金を活用して設備投資に前向きに取り組もうとする姿勢がうかがえる。
審査ポイントは革新・事業性
もともとは緊急経済対策として始まった同補助金事業だが、今では1000億円以上の政府予算がつぎこまれる中小企業支援の目玉施策として定着しつつある。一部で「ばらまきにならないか」と疑問視する声もあるが、過去の倍率は2・3―3倍と決して低くはなく、誰もが受けられるわけではない。
審査のポイントは革新性と事業性があるかどうかで、単なる設備更新では認められない。地域審査のあと全国レベルでの審査があり、3段階の書面審査を通過しなければならない。また同補助金を受けてから5年間は、“試作品を作った”など事業化に向け、どこまで進んでいるか報告が義務付けられている。
12年度補正予算での採択企業のうち、約25%が1年目で事業化に成功し、その事業で売り上げが立ったという。中小企業庁は、同補助金を利用した企業の半数が5年の間にその事業で売り上げを立てられることを目標とする。それにより、同補助金が一定の成果を上げたかどうかを判断する。
採択企業、求められる成果
同補助金はこれまで予算の使い残しはなく、人気の高い施策だ。全国にある中小企業が新たな製品・サービスの開発や生産工程の改善などにより経営基盤を強化し、競争力を高めていければ政府が掲げる地方創生にもつながる。熊本地震の復旧・復興費用を柱とする補正予算には盛り込まれなかったが、自民党の議員からは「地元での人気は高い」と継続を望む声もある。今後、内需拡大を主眼として景気・経済対策が浮上すれば、継続して予算に盛り込まれる可能性が高い。
これまで製造業に加え商品・サービス業にも対象を広げ、複数企業が共同で進める取り組みでも利用可能にし、補助上限額を拡大した新タイプを追加するなど、同補助金は利用する中小企業のニーズに応え中身を変えてきた。今後も、中小企業にとってより使い勝手の良いものにしていくとともに、採択された企業はしっかりと成果を発揮することが求められる。
工作機械業界は強い投資意欲も、足元は採択待ちで買い控え
ものづくり補助金を使って導入する代表的な生産設備が工作機械だ。工作機械ユーザーの反応はよく、メーカー大手のオークマは「申請件数は期待通りだ」(営業部)とユーザーの強い投資意欲を感じている。同補助金の中でも、IoT活用を前提にした、補助上限額3000万円の「サービス・ものづくり高度生産性向上支援」への「関心が高い」(同)という。
ただ、足元は補助金が受注活動の“足かせ”になっている。日本工作機械工業会(日工会)がまとめた4月の工作機械受注実績(速報値)は、32カ月ぶりに1000億円を割り込んだ。1000億円は、業界の健全性を判断する目安となる額だけに穏やかではない。中国経済の減速や資源安による世界経済の不透明感、為替相場の円高基調、北米の設備需要の一服感、期末明けなど1000億円割れの理由は諸々考えられるが、内需に限れば、同補助金の採択待ちによる買い控えによるところが大きい。この補助金の採択待ちにより、「(補助金の対象である)中小・小規模企業がなかなか投資に動かない」(メーカー営業担当者)と投資活動が滞っている。
もっぱら、大手、中堅ユーザーの設備需要に受注が支えられている側面もある。同補助金は、6月に支給の可否が決まるため、同月いっぱいはこうした状況が続きそうだ。今回の同補助金の効果は秋口まで3カ月ほど続くとみられる。補助金後の内需がどうなってしまうのか。今は楽観視できない。
(文=湯原美登里、六笠友和)
日刊工業新聞2016年5月18日 深層断面