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<三菱自不正>どうなるトップの進退

相川社長の開発担当としての責任、日産との交渉役は益子会長か
<三菱自不正>どうなるトップの進退

相川社長(左)と益子会長

 「ブランド、社会的信頼が大きく揺らぎ、当社のみの力で立て直すのは容易ではない。自動車産業は転換期にあり、電動化や自動運転、予防安全、ICTなどの新技術と、これを活用した新しいサービスに取り組む必要がある。社外との協業や連携は避けては通れない」―。日産自動車との提携発表後、三菱自動車の相川哲郎社長が社員に送ったとされるメッセージの一節。合理性を訴えている。

 時計の針を少し戻して4月中旬の日曜日、相川社長は技術センターのある名古屋製作所(愛知県岡崎市)にいた。燃費問題にかかわる再試験の現場を視察し、社員と向き合い、そこで燃費計測にどれだけ膨大な時間を要し、経験とスキルが必要かを理解した。

 大型連休直前の4月28日。「1時間でも早く、1台でも多く試験が完了するようにと、体育館で寝泊まりしながら頑張っている社員がいることを知った。みなさんの早く正確な仕事にグループ全体の明日がかかってる。ご家族にもご苦労をおかけしますが何とか頑張ってほしい」。ねぎらいの社内メッセージを発信したという。

 ただ、2通の締めくくりに、立ち位置の変化が見て取れる。連休前のメッセージは「この危機を乗り切るために、チームワークを発揮して私についてきてください」。提携発表後は「提携を前向きに捉え、ブランドと社会的信頼の一刻も早い回復を目指し、期待を超える商品とサービスを創造し提供していきましょう」とよそよそしい印象を与える。

会長、社長の役割は?


 日産との提携シナジーを含めた成長戦略を益子修会長が先導し、相川社長は国土交通省に全面協力しながら燃費不正表示問題の後始末を担当する―。

 いわば三菱自を新・旧に切り分け、社長、会長で役割分担するという観測ができなくもない。いずれも経営の根幹に関わる最重要課題だが、後者は国土交通省やディーラー、サプライヤーなど関係者との長期交渉が予想され、かじ取りは多難だ。

 三菱自は今後、不正の温床となった開発組織にメスを入れる。相川社長は過去、開発部隊を陣頭指揮する中でリコール隠し問題が発覚、エンジニアが大量に会社を去るという苦い経験を持つ。今回は経営トップの立場で、”古巣“に対し、より厳しい決断を下さねばならない。

 相川社長の趣味は作文。「チームの中で困っている人は『困っている』と言おう。困っている人がいたらチームのみんなで助け合おう。一人で悩みを抱えないでください。チームで悩み、知恵をだし、それでもだめなら上にあげ、最後は社長にあげればいい。上にあげることを躊躇(ちゅうちょ)しないでください」。提携発表前のメッセージに温和な性格がにじむ。

 三菱重工業の相川賢太郎元社長の長男という”宿命“を背負う、実直な技術系出身社長が、過去最大の難題に挑もうとしている。

 ※日刊工業新聞では「三菱自不正の衝撃」を連載中
日刊工業新聞2016年5月18日
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
相川社長は、開発担当部長・執行役員の頃から社内メッセージを積極的に発信し、風通しが悪い三菱自動車の中で異色の存在で、早くから将来の社長と言われてきた。しかし、前回のリコール隠しに続く今回の燃費不正には、その間の直接の担当役員として重い責任を負っていることは間違いない。一部で退任予定と伝わるが、やむを得ない。日産のゴーン氏との信頼関係を築いてきた益子会長が暫定的に引っ張るしかなかろう。

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