有機ELへの期待は高すぎないか?「某社の罠」(鴻海会長)

ジャパンディスプレイとシャープは液晶との両にらみ。投資には慎重姿勢

 有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)パネルへの期待は過剰ではないか―。米アップルが「iPhone(アイフォーン)」への採用方針を決めたことで盛り上がる有機EL。だが量産には巨額の投資が必要になるだけに慎重な声が出始め、既存の液晶パネルの優位性を訴える意見も目立つ。一方、有機ELはデザインの自由度が高い優位点もある。スマートフォン向け小型パネルの次の主役は有機ELか、それとも液晶がその地位を守るのか。ジャパンディスプレイ(JDI)、シャープの日系メーカーは両にらみの姿勢をみせる。

テリー・ゴーの過激発言


 12日のJDIの決算説明会。本間充会長兼最高経営責任者(CEO)は有機ELパネルについて「市場がどうなるか分からない。状況を見極めて徐々に投資する」と慎重な姿勢をみせた。

 「なぜ多くの人がこれほど有機ELパネルを推すのか?(有機ELを推す)某社の罠(わな)ではないか」―。シャープの買収を決めた台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘会長は過激な表現で有機ELへの期待の大きさに疑問を投げかける。

 アップルは2017年にもアイフォーンに、曲げ加工が可能なフレキシブル有機ELパネルを搭載する見通し。スマホのリーダーであるアイフォーンでの採用とあり有機EL関連市場が活発化しており、JDI、シャープも18年以降の量産に向け2000億円規模を投資する計画。それでもこうした発言が飛び出すのは、液晶パネルに対し圧倒的な優位性を見いだせないからだ。

 自ら発光する材料を使う有機ELパネルは、画像が鮮明であることや、省エネルギー性が特徴とされてきた。しかし液晶が進化し、これらの利点は薄れている。

コストは液晶の2倍


 また製造コストも厳しい。液晶パネルのようにバックライトを搭載する必要がなく、「究極的にはコスト低減できる」(林秀介テクノ・システム・リサーチ〈TSR〉マーケティングディレクター)が、足元では液晶の2倍ともいわれる。RGB(赤緑青)3色で画素を塗り分ける主流の方式は、大型真空装置が必要になるほか、1枚の基板から切り出せるパネル枚数が少ないなど生産効率が低いためだ。

 液晶に比べ劣勢に立たされる部分もある。画質を左右する高精細化が難しい点だ。有機ELでは型の役割を果たすメタルマスクを用いて画素パターンを形成する。

 同マスクは熱による膨張などが生じやすく、パターンを精緻に制御することが難しい。また画素を動かす回路が二つ必要で微細加工には不向き。こうしたことから現状では、1インチ当たりの画素数を示す「ppi」は400程度が限界とされる。

高精細化に壁


 足元ではスマホの高精細化は一段落しているが、20年に大容量データをやりとりできる第5世代移動通信方式(5G)が始まり、フルハイビジョン(FHD)の4倍の解像度を持つ「4K」映像コンテンツが活発化すれば、再びスマホの高精細化の流れが加速する可能性がある。

 アイフォーン6Sプラスなどが採用する5・5インチディスプレーの場合、FHD仕様で必要なppiは約400、4Kでは2倍の800ppiになる。有機ELでは対応できず、「高精細スマホは液晶の独壇場になるかもしれない」(パネルメーカー幹部)。

アップルはなぜ有機ELを採用?


 なぜアップルはフレキシブル有機ELパネルの採用を決めたのか。林TSRディレクターは「高いデザイン自由度に注目したのではないか」と指摘する。

 有機ELは液晶に比べ部品点数が少なくデザインの制約が少ない。また画素を形成する基板に薄い樹脂を採用するフレキシブル型は曲げ加工できる。実際、早ければ17年に登場する有機ELアイフォーンについて業界内では「全面がディスプレーで両端を曲げたデザインを採用するのではないか」との声が上がる。

 右肩上がりで販売台数を伸ばしてきたアイフォーンだが、16年は減少に転じる可能性がある。「有機ELの採用でフォームファクター(外形)をがらりと変え革新性をアピールし、再浮上を狙う」(林ディレクター)というわけだ。

 ただ両端が曲がったスマホはすでに韓国サムスン電子が「ギャラクシーS6エッジ」などで製品化している。有機ELの量産技術はサムスン電子が先行しており、アップルはまず同社からパネルを調達する見通し。

「有機ELアイフォーン」はサムスンの2番手


 このため「先端の有機ELはサムスン製スマホに搭載される可能性が高く、アイフォーンは2番手になるのではないか」とIHSグローバルの早瀬宏シニアディレクター上席アナリストは指摘する。有機ELアイフォーンが、消費者に支持されるかは不透明だ。

 アップルがやるなら、やるしかない。しかし広く普及するのか―。有機ELの将来性に確信を持てずにいるJDIとシャープは液晶との両にらみで事業展開を図る。有機ELシフトを鮮明にするサムスンディスプレイ、LGディスプレイの韓国2社とは対照的だ。
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(後藤信之)

日刊工業新聞2016年5月16日

後藤 信之

後藤 信之
05月17日
この記事のファシリテーター

有機ELパネルについての取材を通じ、「あまり乗り気でない人も結構多い」と感じたことが、今回の記事を書くに至ったきっかけです。記事では有機ELの欠点をいくつか挙げました。もちろん今後の技術革新でこれらの課題が解決され、有機ELは主役の座を射止めるかもしれません。しかし日系勢は必要以上に焦る必要はないと感じます。先行するサムスンのフォロワーとして、技術動向や市場性を見極めながら、適切なタイミングで投資判断をしてほしいと思います。

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