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タカタ、2019年に再び1兆円近くの費用が加わるテールリスクも

自動車メーカーとの求償率の議論は困難を極める
 タカタは米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)とエアバッグ部品を追加リコール(回収・無償修理)することで合意した。乾燥剤が入っていないガス発生剤「硝酸アンモニウム」を採用したインフレーター(ガス発生装置)がすべて対象となり、消費者対応という面で進展を見せた。今後の焦点はタカタと自動車メーカーとのリコール費用の分担協議に移る。しかし不具合の原因の解釈を巡り議論の余地が残り、協議の進展は依然として不透明と言えそうだ。

 現在、リコール費用の大半は、自動車メーカー各社が品質管理費用として一時的に立て替えている。タカタの純資産は15年末時点で1451億円。仮に全額請求された場合は債務超過に陥るなど、経営に大きな影響を与える。

 NHTSAは今回の追加リコールで乾燥剤が入っているインフレーターは含まれていないとし、タカタが進める調査結果次第では、さらにリコール対象が膨らむ可能性があるとしている。

 米通信社ブルームバーグは関係者の話として3月、タカタが自動車メーカーに対し、硝酸アンモニウムを使ったすべてのインフレーターがリコール対象となった場合、費用が最大2兆7000億円になるとの試算を伝えたと報道した。

 これに対しタカタは試算を実施した事実はないとして報道を否定。一方、車メーカーの幹部は情報源を明らかにしていないが、費用の総額が「3兆円になるだろうとの話は以前から聞いていた」との認識を示している。兆円単位の費用負担の可能性が指摘されるなか、タカタや車メーカーは難しい判断が求められそうだ。

 「今回のNHTSAの合意があったからといって協議がすぐに始められる状況ではない」と話すのはホンダ幹部だ。

 同幹部が気に掛けるのは合意文書にある「ライクリー(ありそうな)」という文言だ。文書には「”ありそうな“根本原因は時間と温度と湿気」とある。NHTSAは3つの調査機関が実施した原因調査結果を総合的に勘案した上で、リコール対象範囲を特定し、事態の早期収束への進展を図った。しかし、リコール費用分担のベースとなる根本原因の解釈には議論の余地を残した格好だ。

 「ライクリー」は「ほぼ確実」という意味ともとれるというのがホンダのスタンスだ。ホンダ幹部は独自で進めていた原因調査について「ほぼ原因は特定できた。ライクリーという文言は”ほぼ確実な“という意味と受け取っている」とする。

 一方、タカタが今回の合意を受けて発表した声明では、「危険性をうかがわせるデータや技術的結果が外部研究機関などより示されているわけではない」とけん制する構えを前面に出している。NHTSAが根本原因の解釈に余地を残したことで、タカタと完成車メーカー間のリコール費用の分担を巡る綱引きが早くも表面化しているようだ。

 「タカタと完成車メーカーで根本原因のスタンスに相違があると、リコール費用の分担協議に入るのは難しい」というのがホンダ幹部の考えだ。今回の合意はひとまず消費者対応という面では進展を見せたが、タカタと完成車メーカーの協議は依然として不透明感が残っている。

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日刊工業新聞2016年5月9日「深層断面」から抜粋
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
想定通りとはいえ、破裂事象のない乾燥剤無しの硝酸アンモニウムインフレーター全量へのリコール拡大が決定した。NHTSA公表資料は、根本原因を示してはいるが、責任論に関しては何ら触れられていない。メーカーとの求償率の議論は困難を極めるだろう。更に、NHTSAは2019年には、タカタに安全証明を求めた乾燥剤付きが再び論点にあがると強調。今回のリコールが終わっても、世界に約9,000万台の乾燥剤付きの硝酸アンモニウムインフレーターを装着した車があると推察される。2019年には、再び1兆円近くの費用が加わるテールリスクも残されている。

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