東京五輪、サイバー防御“8万人”が不足

どうする育成、強化。底上げと頂点発掘へ

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CYDERの演習。13府省庁がそれぞれ4人程度のチームを組み総勢51人が参加した
 2020年の東京五輪・パラリンピック開催を控え、情報システムをサイバー攻撃から守るセキュリティー人材の育成・強化が喫緊の課題となっている。巧妙化する攻撃に対して、防御体制が追いつかず、わが国では「約8万人が不足」との推計もある。こうしたなか、総務省は人材育成で新たな取り組みを始める。仮想空間でサイバーセキュリティー人材を鍛え、育てる作戦だ。

 サイバーセキュリティー人材をどう育てるか―。官民ともに対応が急がれるが、どこまで何を学べばよいかは一律には語れず、取り組みは簡単ではない。

 高度なスキルを身につけた“トップガン人材”に至っては「決まった道筋で育っておらず、共通的な素養が分かりにくい」(セキュリティーの専門家)。多くの場合、中高生の頃から独力で腕を磨いているが、天才肌ゆえ、「変わり者」とみられる人も少なくない。

 こうした人材を発掘するのも一つの手だてだが、全体の底上げが不可欠だ。総務省ではまずは人材のすそ野を広げるため、中央官庁で行ってきた実践的セキュリティー演習「CYDER(サイダー)」を自治体などに拡大する。さらに東京五輪・パラリンピックを見据え、トップガン級の人材育成にも乗り出す。

 東京五輪・パラリンピックを視野に入れた人材育成策の目玉は「サイバーコロッセオ」構想だ。東京五輪の大会運営システムを模した大規模な演習システム(コロッセオ=競技場)を仮想空間上に構築し、攻撃と防御を実際に体験できるようにする。


NICT役割拡大


 演習システムの構築・運用は総務省所管の情報通信研究機構(NICT)が担当する予定。NICTの北陸StarBED技術センター(石川県能美市)には「スターベッド」と呼ばれる大規模テストベッド(検証システム)があり、同様にサイバーコロッセオ専用のシステムを構築し、17年早々の稼働を目指す。演習の対象はオリンピック組織委員会や東京都、オリンピックに関連する企業などを想定する。

 12年の英ロンドン五輪大会の運営ではネットワーク運用・管理者800人が関わり、うち50―60人はトップガン級の人材をそろえた。20年の東京大会はロンドン大会と同等以上の陣容となるのは確実だ。

仮想空間の競技場で学ぶ


 標的型攻撃をはじめとするサイバー攻撃は年々巧妙になっている。ウイルス感染させたパソコンをロボットのように操り、情報を改ざんしたり、他のシステムを攻撃したりする。こうした被害は国内だけで年間3万件近くが報告されているが、氷山の一角でしかない。

 世界にはサイバー闇市場という存在もあり、表面化していない案件も含めると、闇市場は数千億円を優に超えるという。ロンドン五輪では大会期間中に2億件のサイバー攻撃があったことが知られている。

 東京五輪・パラリンピックはこうした脅威と対峙(たいじ)しなければならない。サイバー空間の脅威は現実空間にも大きな打撃を与える。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の今井勝典警備局長は「東京大会の警備は過去最大の体制となる」と気を引き締める。

 「サイバー攻撃は日々進化するため、訓練は1回ではなく、何度も繰り返し受けることが大切だ」。NICTのスターベッドの創始者でもある篠田陽一北陸先端科学技術大学院大学教授はサイバー演習の重要性を強調する。

<次のページは、五輪組織委員会警備局長インタビュー>

日刊工業新聞2016年5月2日

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