柔らかい組織向けの手術支援ロボット、専門外科医上回る腕前示す

6割方が自律制御、生きたブタの腸を均一・正確に縫合

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STARによる生きたブタの腸吻合手術の様子(Axel Krieger氏提供)
 腸など柔らかい内臓組織を手術する際、人間の外科医以上に均一かつ正確に縫合できる自律型の手術支援ロボットが開発された。米シェイク・ザイード小児外科研究所とジョンズ・ホプキンス大学のグループによる研究で、生きたブタの開腹手術などで有効性を確認した。柔らかい組織は力をかけると変形しやすく、動いたり滑ったりしてしまうため自律ロボットによる手術は難しいとされてきた。さらに開発が進めば、手術でのヒューマンエラーの一掃や、合併症をなくすことで患者のケア改善にもつながる可能性があるという。

 「スマート組織自律ロボット(STAR)」と名付けられたこの手術支援ロボットは、本体に独KUKAのライトウェイトロボット(LWR4+)を採用。ミリメートル未満の位置決めといった性能のほか、力センサーや手術器具、3D画像システムを備える。あらかじめ組織の縁に付けられた近赤外線蛍光マーカーを近赤外線センサーで認識し、組織が伸びたり動いたりしても、縫合針の付いたアームの先端が縫い付ける場所をきちんと追随できるようにした。

 さらに腸吻合など熟達した外科医の縫合の技を縫合アルゴリズムとして取り入れている。実証実験では、体外に取り出したブタの腸のほか、生きているブタに麻酔をかけて開腹し、その腸をいったん切ってから体内で縫合した。手術を受けたブタは合併症を起こさずに回復したという。

 ただ、自律型の手術支援ロボットとはいえ、完全自動ではない。動画で見られるように、外科医が縫合糸をピンセットでそろえたり、誘導したりといった作業を行っている。研究リーダーを務めたシェイク・ザイード小児外科研究所のピーター・キム教授はこれらを「人の手による微調整」とし、実験では自律制御が6割程度、残り4割は人間の手によるものだという。その上で、将来は「完全自律での運用もあり得る」とした。

 一方、他の手法との比較では、5人の専門外科医が、手による開腹手術、腹腔鏡手術、「ダヴィンチ」によるロボット支援手術を実施。ブタの体外・体内で同じ腸吻合の手術を行い、STARと比べてみた。その結果、他の手法より時間はかかったものの、縫合糸の間隔や、内容物が漏れ、合併症の原因とならないようにするための糸の圧力、さらには手術中に組織から針が外れるような誤りがなかったか、といったいずれの評価項目でも他の手法より優れていることが示されたという。

 現在の手術支援ロボットは、「ロボット」とは言われているものの、外科医個人の手術の腕に依存しているのが現状で、その技は訓練や経験によってばらつきがある。「ダヴィンチ」にしても外科医の遠隔操作による手術であり、ロボットが状況に応じて自律的に動作するわけではない。

 これまで骨の切断など硬い組織では手術の自動化が進んできているのに対し、腸などの軟組織ではその動きを予測することが難しく、自律型を適用する上で障害となっていた。STARにしても、数年後の実用化は予想しにくいが、将来、腸手術や腫瘍摘出など軟部組織の手術に適用される可能性がある。成果は5月4日付の学術専門誌サイエンス・トランスレーショナル・メディスンに掲載された。

⚫︎研究に関わったPeter Kim教授とAxel Krieger助教による説明(Carla Schaffer / AAAS)

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COMMENT

藤元正
モノづくり日本会議実行委員会
委員長

唯一の弱点は縫合に時間がかかっている点か。ブタの腸の実験では縫合に35〜57分かかり、腹腔鏡とさほど変わらなかったのに対し、外科医による開腹手術ではわずか8分だったという。また、完全自律というのも技術的にはあり得るのだろうが、人の命にもかかわる問題なので、万一の場合も考慮し、セミ自律型で外科医が管理するやり方のほうが現実的かと思われれる。

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