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企業集積に成功…スタートアップ支援施設「ステーションAi」、今後の成否占う試金石

企業集積に成功…スタートアップ支援施設「ステーションAi」、今後の成否占う試金石

昨年10月31日に全面開業したステーションAi

愛知県が2024年10月31日に全面開業した日本最大級のスタートアップ支援施設「ステーションAi」(名古屋市昭和区)には、現時点で500社ほどのスタートアップと、それらとの連携を求めるパートナー企業の約240社ほどが入居する。25年はこれらのスタートアップがパートナー企業の後押しの下、次代のビジネスを創出し飛躍していくことが期待される。ステーションAiを活用する入居企業の動きを追った。(名古屋・狐塚真子、編集委員・江刈内雅史)

「ステーションAiは未来に向けた創造の場だ」―。

こう強調するのはJTGの清水康孝社長。同社は人工知能(AI)を用いた製品外観検査の導入提案をする20年創業のスタートアップ。名古屋市昭和区に本社と検査自動化に向けた検証をするラボを構えているが、大企業などとの新たな出会いを求めて、ステーションAiにもサテライトオフィスを設けた。

ステーションAi内のサテライトオフィスで業務をする清水JTG社長

「従来は外部の情報は自分から取りに行く必要があった。ステーションAiでは伴走支援を行うスタッフへの相談やイベントの場を通して、(連携したい)企業といち早くつながることができる」と、そのスピード感を評価する。

JTGでは企業の製品検査の自動化に向けて、検査設備・AIソフトウエアの両面から対応できる点を強みとする。設備では15社、ソフトでは3社と連携しており、最適な検査体制の構築を一気通貫で支援する。

23年10月からは導入価格を抑えた中小企業向けの外観検査装置「JTGムジンダー」を展開。食品業界などからの引き合いも高まっているという。現在、自社内でのソフト構築は行っていないが、今後はM&A(合併・買収)による連携、ソフトの内製化も視野に入れている。

HRテックサービスを手がけるスタートアップmuuv links(ムーブリンクス)。県がステーションAi開設までのつなぎとするために設立した支援拠点「プレステーションAi」(名古屋市中村区)に入居していたが、ステーションAi開業後に本社を同施設内に移した。

24年5月にモノづくり系のエンジニアや技術者に特化した採用サービス「muuv career(ムーブキャリア)」を開始した。ヘッドハンターやエージェントの利用を制限して、既存サービスよりマッチングをしやすくしたのが特徴だ。今後は、ほかの入居企業などとのイベント開催を通して、潜在層の取り込みを図る。

北健人社長はステーションAiについて「入居することへの明確なバリューや、各企業の実績といった情報発信をより積極的に行うことで、優秀な人材が多く集まり、活躍する企業が増えるという好循環を期待する」と語る。

ステーションAiには個室のほか、偶発的な出会いを生むコーワーキングスペースや、開放されたスペースに入居者の席を置く固定席を用意するなど、入居者同士の交流をしやすくする仕掛けを施している。

製造業向けにコンピューター利用設計・製造(CAD/CAM)、コンピューター利用解析(CAE)や3Dプリンターといった3次元(3D)技術関連の製品の開発や販売を手がけるデータ・デザイン(同中区)は、パートナー企業として固定席を持った。

同社は今後、「製造業だけでなく建設や医療関係にも当社のソリューションを拡張していく」(データ・デザインセールスユニットマーケティンググループ)。特に医療関係については機器やソフトの開発・販売を積極化する方針だ。そのためのオープンイノベーションの拡大に向け、ステーションAiを足がかりに、人工知能(AI)やロボット、IoT(モノのインターネット)関連のスタートアップとの関係作りを狙っている。

25年からはステーションAi内で自社のセミナーを開催するなどして、パートナー探しを加速させる考えだ。

開業時から数多くのスタートアップやパートナー企業の集積に成功したステーションAi。今後、どれだけ企業間の連携によるシナジーを生み出せるかが、成否を占う試金石になると言えそうだ。

日刊工業新聞 2025年01月06日

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