竹中・大成・清水…建設業界で取り組み広がる、「循環経済」の推進力
建設業界でサーキュラーエコノミー(循環経済)の取り組みが一段と広がってきた。推進力となっているのは他社との協業だ。個社の活動を起点に他社のノウハウを取り込み、さらに業界の垣根を超えた連携の枠組みを創出することで、資源循環の新たなサプライチェーン(供給網)構築への期待が高まっている。(編集委員・古谷一樹)
資材情報の共有がカギ
建設業界が率先してサーキュラーエコノミーに取り組む意義は大きい。多種多様な資材を取り扱っており、資源の効率的な利用や廃棄物の削減を進めることが、二酸化炭素(CO2)排出量の削減につながるためだ。
個社の取り組みが活発化する一方で、裾野の広さゆえの課題も抱えている。多くの調達先とかかわるサプライチェーンの中で建設業界が主導権を握って取り組みを進めるのは容易ではない。 資源循環に向けた動きを今後さらに加速し、広げていくには何が必要か。デロイトトーマツグループの庄崎政則執行役員が期待するのが、経済産業省が主導する業界横断的な産業データ連携の仕組み「ウラノス・エコシステム」の活用だ。 すでに自動車分野での活用が先行しており、これを他の業界に広げるための検討が進みつつある。例えばCO2削減を目的にサプライヤーが供給する資材の情報を共有・把握できれば、「建設業界にとっても大きなサポートになる」(庄崎執行役員)とみている。竹中工務店/製鋼原料・電炉と回収網
竹中工務店はサーキュラーエコノミー実現に向けた新たなコンセプトとして、「サーキュラーデザインビルド」を提唱している。従来の手法「スクラップ&ビルド」を見直し、設計・施工段階でリユース・リサイクル建材を選択することや、解体を考慮した設計手法の検討などによって廃棄物削減や資源循環につなげるのが目的だ。
これらの実現に向けて、「業界横断的に取り組む必要がある」(福井彰一経営企画室サステナビリティ推進部シニアチーフエキスパート)と判断し、製鋼原料加工会社、電炉鉄鋼メーカーとともに協力体制を構築。新たな鉄スクラップのリサイクルの取り組みをスタートした。
ゴールに位置付けているのは、鉄スクラップ循環サイクルの全体最適化。建築物の解体で生じる鉄スクラップを回収して鉄鋼原料に加工し、環境負荷が低い電炉で溶解して製品化するまでの流れの中で、使用するエネルギーやCO2排出量などを見える化し、情報共有していく。
梅津利治調達本部シニアチーフエンジニアは「企業同士が連携することで、効果をもっと引き出せる」と強調。協力会社の増加を含め、活動の輪をさらに広げる構想を描く。
大成建設/端材運搬のCO2低減
大成建設は日本通運と共同で、「建設副産物巡回回収システム」の構築に取り組んでいる。大成建設が2014年に始めた不燃系建材端材の再資源化の活動に日本通運が23年から協力する形で、再資源化量の拡大と荷量確保による安定運用体制を確立した。
多種多様で混合廃棄物になりやすく、分別やリサイクルが困難な建設端材。個々の現場から再資源化施設までの運搬コストが高く、CO2排出量が増加する課題もある。
同回収システムは複数現場を同一車両で巡回回収し、品目ごとの再資源化施設にまとめて2次輸送できる。建設現場で排出される廃棄物のリサイクル効率化に加え、運搬コストやCO2排出の低減効果を引き出した。
回収時には観音開きタイプのかご台車を使用。異なる品目の建材端材を一つの車両にまとめて運搬することで積載率を向上させた。
今後、「さらに回収システムを充実させていく」(竹尾健一サステナビリティ経営推進本部カーボンニュートラル推進部環境技術室長)考え。回収エリアの拡大、対応品目や建材メーカーの追加、モーダルシフトによる長距離運搬などを進めることにより、「建材サーキュラーエコノミー」の実現を目指す。
清水建設/現場の紙コップを再生
王子ホールディングスと協力し、飲用の紙コップのリサイクルを工事現場で初めて行ったのが清水建設だ。横浜市の工事現場で使用済み紙コップを回収し、ハンドタオルなどにリサイクルする取り組みを現在も続けている。
対象となるのは、従業員や作業員が業務中に使う飲用の紙コップ。夏期は特に、熱中症対策としてスポーツドリンクなどを配布するため使用量が増える。リサイクルを始めるまで、廃棄数が事務所と現場合わせて月540個程度に達し、燃えるゴミと一緒に処分していたという。
リサイクルのカギとなったのは、紙コップを構成する紙とラミネートを分離する王子ホールディングスの技術。また、現場では選別回収を徹底するためリサイクルの仕組みなどを記したポスターを掲示したほか、専用の回収ボックスを設置した。
活動の効果はてきめん。24年5月から3カ月間の回収量は1200個以上となり、回収率の向上や異物混入防止を含めて工事現場でリサイクルを実現するためのノウハウを得た。
今後のテーマは「他の現場にどう展開していくか」(小谷洋史環境経営推進室グリーンインフラ推進部主査)。成果の一層の浸透を狙う。