消費電力10倍…AI需要でサーバー高熱に、DC各社「液冷」対応急げ!
人工知能(AI)需要の高まりに対応するため、データセンター(DC)事業各社が液体冷却技術の活用に向けた取り組みを進めている。キヤノンITソリューションズ(ITS、東京都港区、金沢明社長)が、既設の西東京DCの2号棟で直接液冷方式サーバーの冷却サービスの提供を始めたほか、NTTデータはDC関連の各事業者が技術を共同検証できる施設を千葉県野田市に開設した。進化するAIの実装に不可欠なインフラの構築を急ぐ。(熊川京花)
「AIソリューションの導入や高次元データの解析ニーズが急速に高まっている」と、キヤノンITSのITサービス技術統括本部データセンターサービス本部D2プロジェクトの武田智史プロジェクト長は指摘する。
AIや解析などの処理には高い計算能力が求められ、画像処理半導体(GPU)や高性能な中央演算処理装置(CPU)を搭載したサーバーが必要となる。現在主流のGPUサーバーは消費電力が10キロワットと従来のIAサーバーに比べて約10倍に高まった。次世代モデルのGPUサーバーの消費電力は14キロワットと言われており、今後もサーバーの高負荷化は続く見込みだ。
サーバーの消費電力増大に伴い、発熱量の増加が課題となっている。現在主流の空冷方式では処理しきれない領域に達しており、より効率的に熱を冷やせる液体冷却技術の導入が必要になる。
キヤノンITS/高効率な直接式、迅速構築
キヤノンITSは今後、液冷の中でも直接液冷方式(DLC)が主流になると見込み、西東京DCの2号棟に直接液冷方式サーバーを設置できる設備を構築した。設計に多様な解析を必要とする製造業のニーズに応えた。
直接液冷方式は、最も発熱の大きいGPUやCPUの直上に取り付けたコールドプレートまで冷却液が通るホースを引き込み、直接冷却する。冷却液で回収された熱は、冷却水分配装置(CDU)内を循環する間に、DC設備側の冷水との熱交換により排出される。
キヤノンITSはラック内に設置されたCDUへの冷水供給を担った。CDUからDCの冷水設備に接続するためのホースを設置しており、同ホースが接続できる冷水配管と接続口までを同社が施工した。設備設置は4カ月で完了。元々、サーバー室は2重床で、冷水供給配管を通すスペースが確保されていたため、短期間での構築を実現した。
1ラック当たり100キロワットの冷却が可能。サーバー排熱の70―80%をDLCで回収し、残りの20―30%は空冷で回収する。各機器は冗長構成を取るほか、CDUに冷水を供給する配管にはラックごとにバルブを設けており、緊急時は障害ラックのみを切り離せる。
サーバーメーカーごとにDC側で供給する必要がある冷水の温度帯や水量、水圧といったCDUの仕様が異なるが、キヤノンITSが設置したDC側の冷水設備は多様なサーバーメーカーのCDUに対応できるという。直接液冷方式サーバーを設置したいというニーズに迅速に応える。
吉田啓取締役常務執行役員は「DC事業は重要な成長ドライバーになる。22年から25年の4年間でDC関連事業の売上高は44%の伸びを計画している」と力を込める。
NTTデータ/千葉に検証施設開設 事業者で連携、共創
NTTデータはDCの液体冷却技術の活用推進に向けた検証施設「データセンタートライアルフィールド」(千葉県野田市)を開設した。日比谷総合設備、桑名金属工業(三重県桑名市)と協力して複数の液体冷却の装置やサーバーを同時稼働できる環境を構築した。DCに関わる各事業者が連携・協働する共創施設とする。サーバーなどのIT機器を絶縁性のある特殊な液体に浸して効率的に冷却する「液浸冷却」も含め、幅広く液体冷却技術の活用を業界横断的に模索する。開設時の冷却能力は75キロワット。
DC関連事業者の関心は高く、開設したと24年11月に発表後「想像を超えた引き合いがあった」(担当者)という。液体冷却対応サーバーやCDUの仕様がメーカーごとに異なっていたり、配管の仕様が日本向けに適していなかったりなどの課題を踏まえて解決策を探る。「各事業者間で相互に理解を深められれば、より最適な提案ができる。解決の糸口の発見や新たなソリューションの開発につなげたい」(同)と意欲的に取り組んでいる。
IDC Japan(東京都千代田区)は、AIサーバーとAIストレージで構成される国内AIインフラ市場の22年から27年における支出額の年平均成長率(CAGR)は16・6%と予測する。27年の同市場の支出額は1615億5000万円と予測しており、今後も着実な成長が見込まれる。DC事業各社の液体冷却技術の実用化に向けた取り組みも一層進展しそうだ。