ニュースイッチ

三菱ケミカル・旭化成・住友化学…化学大手3社長が語る2025年の展望と戦略

三菱ケミカル・旭化成・住友化学…化学大手3社長が語る2025年の展望と戦略

イメージ

2025年は化学業界がさらに変革に大きく一歩を踏み出す年になりそうだ。米中のデカップリング(分断)や中国の供給過剰、脱炭素対応などの課題に対し、化学各社は事業構造の改革や新たな連携の姿などを示し出してきた。関わる産業の裾野が広い化学業界だけに多彩な技術力などが強みであり、持ちうる経営資源をフル活用して新たな付加価値をいかに紡ぎ出すのか。化学大手3社の社長に展望や戦略を聞いた。(山岸渉)

三菱ケミカルグループ社長・筑本学氏/良いモノ「つなぐ」仕組み確立

―35年度に向けた長期ビジョンと、5カ年の新中期経営計画を策定しました。
 「作って良かったとあらためて思った。(ビジョンや新中計を)作っていく中で本質的な問題点がより鮮明に分かった。キーワードは、やはり『つなぐ』だ。当社はさまざまな良いモノを持っているが、うまくつなげることができていなかった。つなぐ仕組みが大事だ。それぞれの部署につながるための肝になる組織を作るなど、できるだけ早く社内にアナウンスして4月から回していきたい。会社としての必勝パターンのプロセスとして確立できれば、変われる」

―本業の化学事業を伸ばす上で、高機能材料を担う「スペシャリティマテリアルズ」ではどんな分野に力を入れていきますか。
 「炭素繊維複合材料は合理化し、25年度から黒字になるだろう。仕込みとして伊CPCを買収、合理化にも手を付け一部事業で人員削減などもした。これから、より本格化する。自動車向けはポテンシャルが高い。これまではモータースポーツ分野がメーンの顧客だったが、これからはもっと裾野が広がる。電気自動車(EV)の関係なども出てくるだろう。プロジェクトはいくつもあり、一つずつ進めばCPCの稼働率が上がる。フィルムも同じ形で、古い設備は止めて成長性の高いフィルムについては新しい設備を立ち上げるなど、力を入れていく」

半導体分野はトップ級のシェアを持つ製品も多い中、新分野として窒化ガリウム(GaN)基板の開発に取り組んでいます。
 「『GaNオンGaN』は世の中を大きく変える。日本製鋼所(JSW)と組んでいるが、研究開発を加速していきたい。(直径)4インチではなく、6インチのところで顧客からの引き合いが多い。他社に負けずにやっていきたい」

―石油化学事業では再編や脱炭素対応で連携が進んでいます。
 「(今後の国内のエチレン年産能力は)せいぜい500万トンと言われるが、そこまで要るだろうか。輸出も止めるようになるだろう。そういった点を考えると国内市場に見合った基礎原料を作り、誘導品で勝負していく。それらを含めてグリーン化していく。(西日本では)旭化成三井化学と取り組むし、鹿島(コンビナート)では単独で川上・川下で組んでいく」

―新中計などを進める中で、田辺三菱製薬が担うファーマ事業の位置付けはどう変わりますか。
 「国内は毎年薬価を下げるという方向なので、得意な免疫疾患などの分野をもっと伸ばさないと生き残れないし、成長できない。やはり(研究開発の)資金力が必要だし、ファーマのために資金を投入してくれるパートナーがいないといけない。当社で同じ資金をどう使うか考えた場合、化学の人間が多いのでファーマは不利になる。ファーマの知見を持ち、一緒に取り組むことで相乗効果を生み、投資を継続してくれる相手がいれば理想だ」

旭化成社長・工藤幸四郎氏/感光性絶縁材の新工場検討

―25年度は次期中期経営計画のスタートの年です。次の3カ年について方向性はどのように考えていますか。
 「事業ポートフォリオ変革を進めながら、しっかりした成長を遂げる中計に戻したい。マテリアル領域はポートフォリオ変革をしながら成長回帰していくので、次期中計の収益の伸びは大きくない。一方、ヘルスケア領域と住宅領域は次の3カ年で強い成長力を見せることができる。その次の30年度に向けた3カ年では、マテリアル領域が力強く成長するだろう。構造変革をしながら、時間軸の違いはあるが、3領域経営が進化するための最初の3年間にしたい。30年度には、3領域が営業利益ベースでそれほど変わらなくなるのではないか」

―マテリアル領域では、感光性絶縁材料「パイメル」の新工場や品証棟を富士支社(静岡県富士市)に設けました。
 「パイメルは新工場が完成したが、それでは足りないだろう。25年度中に増設を決めなくてはいけないと考えている。依然として生成人工知能(AI)の需要が相当伸び、顧客からも引き合いがある。期待に応えるべく検討する。30年度に向けては、まだ足りない。富士支社の敷地が一杯になるので、事業継続計画(BCP)の観点を含めて、どうするかを考えていきたい。重要な材料を提供しており、サービスや品質も認めてもらっている」

―石油化学関連事業の構造改革の進捗(しんちょく)は。
 「24年度中には方向性は定まってくる。ただ、ステークホルダー(利害関係者)や従業員も多く、組合との交渉や顧客との話し合いもある。できるだけ早く決めて、報告したいと思っている。川上の各社とは(認識を)共有化できているが、川中の企業などと、どう話をしていくかも大事だ」

―知的財産や人材など、無形資産を活用した新たな事業展開にも注力しています。
 「素材が我々の核にあるのは変わらない。ただ、収益性を上げながらアジャイル(機敏)な経営をするには重いアセット(資産)を持っていては身動きできない。今は量を取りにいくより価値をどう上げていくかで、プラットフォーム型のビジネスがどれだけ構築できるかが大事だ。例えば、イオン交換膜のビジネスなどがある」

―住宅領域はどう取り組みますか。
 「一戸建ては厳しいが、メゾンを含め高級化路線を継続しながら安定した利益をしっかり出していきたい」

―ヘルスケア領域は本部を米国に置き、スウェーデンの製薬会社カリディタスを買収しました。
 「ニッチな分野をどう攻めていくかを考えると腎疾患領域はメガファーマが目を向けない可能性が高く、この領域を研ぎ澄まして強くしないといけない。成長市場は米国であり、“ワンファーマ”として25年度末までに(日米の医薬事業を)統合する。次期中計になるか分からないが、もう一つ親和性の高い事業を買収したい」

住友化学社長・岩田圭一氏/アグロ・ICTで成長加速

―24年度は23年度の業績悪化を受け、構造改革などを通じてV字回復を目指しています。
 「短期集中業績改善策や、再興と成長の構造改革を同時並行で進めてきた。当社は歴史的に変革を何度も経験しており、困難からの復元力があると実感した。ある程度V字回復が見えてきた。25年度も流れを止めず、より成長の道筋を確かなものにする。(同改善策の)キャッシュ創出では7000億円を目指し、24年度末に向かってやり遂げる」

―25年度からの新中期経営計画はどんな点を重視しますか。
「27年度までの新中計の先に30年度がある。成長戦略で示したのは、30年度に(農薬などの)『アグロ&ライフソリューション』と(電子材料などの)『ICT&モビリティソリューション』でそれぞれコア営業利益1000億円を目指す。その間に、(先端医療などの)『アドバンストメディカルソリューション』と(石油化学関連の)環境負荷低減の技術開発をしていく。30年度に向かう中間地点が27年度と考えている」

―アグロやICTは成長ドライバーとして、新中計での取り組みは。
 「方向性を全面的に見直すことはないが、より強化するために、アグロは欧州の強化や(天然物由来の農薬など)『バイオラショナル』のバリューチェーンをいかに作っていくかだ。ICTは手薄な北米や台湾、次の地域としてインドに注力する。インドで半導体前工程の工場が稼働するのが早くて26年。そのころには、現地化の計画などを顧客に示せるようにしたい」

―サウジアラビアの石化合弁会社ペトロ・ラービグの保有株式の一部売却など、再構築を進めてきた石化関連事業はどんな点に注力しますか。
 「拠点ごとに位置付けや課題が違う。ラービグは本来の強みを発揮し、収益力のある会社にいかになるかだ。数カ月以内には収益力改善の案が(合弁相手の)サウジアラムコやラービグから出てくる。25年にさまざまな手を打ち、26年から収益力が画期的に変わることを期待する。シンガポールは今までキャッシュカウ(安定収益源)の優等生だった。今の厳しい状況は一過性なのか、中国の供給過剰による構造的な問題なのか。それにより打つ手は変わってくるので、見極めたい」

「日本は京葉エチレン(東京都中央区)を中心とした(共同出資相手の)丸善石油化学との稼働率向上によるコスト削減に取り組む。これは第1段階で、三井化学や出光興産を含む京葉地区4社でカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)型クラッカーの議論もしていきたい」

―アドバンストメディカルの戦略は。子会社の住友ファーマの現状はどうみますか。
 「低分子医薬の開発・製造受託(CDMO)をキャッシュカウとして柱にする。再生・細胞医薬などはこれからのビジネスとして取り組む。住友ファーマは自力やグループとして再構築が進んでいる。最も良いパートナーをじっくり検討する」


【関連記事】 大手化学メーカー、構造改革の行方
日刊工業新聞 2025年01月01日

編集部のおすすめ