コマツ・日立建機・コベルコ建機…どうなる?2025年の建機市場、3社トップの見方
2025年の建設機械市場は世界的な金利低下や公共投資需要の追い風もあり、後半になるにつれ堅調な伸びが期待できそうだ。一方で建設現場の人手不足を背景にICT建機や遠隔操縦のニーズは強く、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)対応で電動化などの技術開発も不可欠となっている。3社のトップに聞いた。(編集委員・嶋田歩)
コマツ社長・小川啓之氏/脱炭素化の対策万全に
―1月にトランプ新政権が発足します。建機市場への影響をどう見ますか。
「北米市場はレンタル向けの余剰感に加え、エネルギー関係需要も足踏みしている。ただトランプ新政権の発足により、エネルギー政策はガラリと変わり、回復が見込める。懸念しているのは関税だ。建機部品に関税が課せられても部品のクロスソース(相互供給)で対応できるが、北米で作って輸出している超大型鉱山ショベルに報復関税が課されると影響は大きい。北米で生産していない機種の多くは日本からの輸出だが、これに関税がかけられても、台数の関係から北米生産は難しい」
―電動建機市場の動向は。
「電動建機の市場は現時点でほとんどなく、電気代が安く補助金もある欧州で育ちつつある程度だ。ただ脱炭素化への動きは不可逆であり、今後いろいろな形で電動化の促進や義務付けなどの規制が出てくる事態が想定される」
―それに向けた対応は。
「今のうちからしっかり開発に取り組む必要がある。加えて日本ではコマツがマーケットリーダーという自負がある。電動化市場を当社が率先して創出していく」
「電動化市場が育つのはまだ先で、それまでは既存の車の燃費改善や効率改善が中心になるだろう。ハイブリッドショベルはキーコンポーネントを自社生産している強みがあり、北米やインドネシア市場で伸ばす」
―ICT建機や遠隔操作の開発は。
「遠隔操作は徐々に市場ができつつある。ICT建機は3次元(3D)マシンガイダンスを標準装備した新世代20トン油圧ショベルを24年12月に発売した。建機の値上げは年々難しくなっており、顧客に受け入れられるにはICT建機や無人化などの付加価値が不可欠だ。(部品交換などの)アフターマーケット事業も今後拡大するが、販売台数をさらに増やす必要がある。この事業は利益率が高く、ここを伸ばせば収益力を一層高められる」
日立建機社長・先崎正文氏/投資に商社の目利き力
―25年度の米国市場の見通しは。
「25年度前半の回復を想定している。現地レンタル店が建機を買わない時期が長く続くことは考えにくい。トランプ新政権も経済対策をかなり実行すると予想され、工事量の確保が見込めるのもプラス材料だ」
―北米では伊藤忠商事、南米で丸紅とそれぞれ連携しています。
「建機に対する顧客の要望には地域性がある。それを聞く場合、顧客の末端に深く入り込んでいる商社のパイプを使う方が効率的だ。北米におけるリテール、レンタル店におけるファイナンス業務も商社が強みを持つ。鉱山機械の高成長が見込める南米もエリアが広く、日立建機だけではポルトガル語を話せる人材も限られる。今後はこれに、トロリーダンプ関連など技術分野の投資も求められてくる。その目利きにも彼らの力を借りたい」
―建機の電動化への取り組みは。
「顧客側に電動化ニーズは間違いなくある。どのタイミングで電動建機を使い始めるかを見極めているところだ。それにはまず自分たちが使ってみる必要がある。建機が多数ある現場で1台だけ電動化しても意味がない。多数台がそろって充電できてこそ普及が進みインフラが不可欠だ」
「当社は他社に先駆けて可搬式充電設備を発売済みだが、多数台の建機は充電できない。今後は廃棄バッテリーの問題も出てくる。その検証のため、千葉県市川市に共同ラボを設置した。いろいろなパートナーと解決法を考えていく」
―鉱山機械も電動化ニーズが高まっています。
「一般建機と違って今すぐ電動化製品がほしいという状態だ。有線式油圧ショベルで我々はトップシェアだが、採掘現場は日々変わるのでケーブルが邪魔になる。他方でダンプは電池を多く積むと重量がかさみ、積載量が下がる。ザンビアで現在、超大型フル電動ダンプ稼働実験を進めているが、それを鉱山現場にどう入れていくかの検証にはしばらく時間がかかるだろう」
コベルコ建機社長・山本明氏/ミリ単位制御を可能に
―25年の市場動向をどう見ますか。
「米国、欧州、アジアともに回復は7月ごろからではないか。米国も欧州もレンタル店を中心とした在庫がさばけないと需要が動き出さない。稼働率の目安となる部品売り上げは順調で、要は在庫の整理次第だ」
―米国ではトランプ政権の発足で、米国生産以外の建機に関税が課せられる懸念があります。
「トランプ政権以前でも、そうした話は出ていた。本当に必要な商品なら関税がかかっても買ってくれるのが米国だ。もちろん個々の製品では売り上げが落ちるものも出てくるだろう。それがどの機種なのかを踏まえ、他の機種で売り上げ減を補うことや、米国市場が無理なら他国で拡販するかなど、その時点で考えれば良い」
―同政権の政策が電動ショベル市場に与える影響は。
「米国で電動建機が普及する可能性があるのはカリフォルニア州などごく一部で影響は小さい。重要なのは電動化で基本的な制御の仕組みや操作方法を変えていけることだ。電動アクチュエーターでは3Dガイダンスなどで文字通りミリメートル単位の制御ができるので、自動運転やICT施工の精度を格段に高められる。3DCADとの親和性も高い」
「現状では電動ショベルのアクチュエーターに使うにはモーターの馬力が小さく、使えるのはミニショベルにとどまる。ただ、いずれ高馬力のモーターが開発され、中大型ショベルにも開発の可能性が広がるだろう。ハイパワーモーターなどは神戸製鋼所の関連会社で開発中で、そのメリットも生かしたい」
―遠隔操作システム「K―DIVE」の拡販戦略は。
「25年度からは実際の土木工事現場で使い勝手を確かめ、精度を高めていく。目標は現場の施工例を一つでも多く増やすこと。これが少ないと顧客は買ってくれない。人手不足で需要があるのは確かなので、国土交通省のいろいろなプロジェクトに相乗りし、認知度を上げていく」
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