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急回復の「クルーズ船」…就航相次ぐ新規船、それぞれの特徴

急回復の「クルーズ船」…就航相次ぐ新規船、それぞれの特徴

商船三井クルーズが運航するクルーズ船「三井オシャーンフジ」

海運業界では2025年に新規クルーズ船の就航が相次ぐ。日本郵船は7月に新造の「飛鳥III」を就航するほか、商船三井も「MITSUI OCEAN FUJI」が就航し、両社ともクルーズ船が2隻体制となる。クルーズ船市場はコロナ禍以降、急速に回復。さらなる拡大も見込まれており、新たな船の投入で市場の活性化を図る。(高屋優理)

商船三井、複数運航で効率化

「クルーズ事業は成長分野」。商船三井クルーズの向井恒道社長は「MITSUI OCEAN FUJI(三井オーシャンフジ)」の就航記念イベントでこう述べた。24年12月に就航した三井オーシャンフジは米シーボーン・クルーズの「シーボーン・オデッセイ」を日本市場向けに改装したもので、全室スイートのラグジュアリークラスのクルーズ船。総トン数3万2477トン、乗客定員458人と中型船になる。現状はバハマ船籍で、必ず外国に寄港しなければならないなど、運航面やマーケティングなどで制約が大きいため、早期に日本船籍への転換を目指している。

商船三井は22年に約1000億円を投じ、既存の「にっぽん丸」に加え、新たに2隻のクルーズ船新造を公表した。当初、1隻目は27年をめどに竣工する計画だったが、「円安や造船会社の人手不足もあり、発注が1―2年遅れる可能性がある」(向井社長)と、現状は竣工が28年以降にずれ込む見通しだ。三井オーシャンフジは中古船を改修し、新造船に先行して投入するもので、24年9月に横浜に着岸したところで受領。約6週間で日本人向けにレストランや船内の案内表示などを改修し、急ピッチで就航にこぎ着けた。

向井社長は「クルーズ船は予約やチェックインなどのシステム投資が大きいので、複数隻運航すると効率化できる」と、メリットを強調する。

にっぽん丸は船齢が34年と引退が迫り、新造船も竣工が後ろ倒しになっているが、「ここ数年のクルーズ需要の拡大で2隻とも予約が好調。次の船が出てくるまでにっぽん丸をなんとかもたせて、複数隻を維持したい」と話す。

日本郵船、LNGの「飛鳥III」投入

日本郵船が7月に就航する「飛鳥III」は、総トン数が5万2000トンで、乗客定員740人。独マイヤーベルフトが建造した。液化天然ガス(LNG)燃料を採用し、二酸化炭素(CO2)の排出を減らすなど、環境にも配慮している。

渡辺和俊日本郵船客船事業グループ長は「市場環境が恵まれている時期に就航できる」と話す。クルーズ船は海外を中心に大型船が就航するなど、市場が活性化しており、23年にはコロナ禍前の19年の乗降客数を突破。27年には4000万人近くに達すると予測されている。

日本郵船の新造大型客船「飛鳥III」(イメージ)

当初、飛鳥IIIは老朽化していた飛鳥IIの後継船と目されていたが、06年に就航し船齢が30年以上の飛鳥IIの後継船と目されていた。だが、クルーズ船の市場環境の変化を受け、「客船事業を中核事業と位置付けた」(渡辺グループ長)ことで、リプレースから飛鳥IIも維持する2隻体制にかじを切った。

両社のクルーズ船に共通するのは、中型船形で高価格帯のラグジュアリークラスであること。市場で主流となっているのは、1000人以上が乗れる大型船で、5日間のクルーズで10万―30万円の手頃な価格のカジュアルクラスで市場を広げている。一方、三井オーシャンフジは5日間のショートクルーズの最低価格が1人50万円程度と、庶民にはなかなか手の届かない高根の花だ。渡辺グループ長は「まず外国船からクルーズ船に入ってもらって、次に飛鳥に乗ってもらう」と、マーケティングの明確なすみ分けを狙う。

両社が客船事業へ本格的に投資する背景には、海運業界がコロナ特需で業績がV字回復し、急速に投資余力を得たことがある。日本郵船の曽我貴也社長は「飛鳥IIもあと5―6年。今後2年くらいで、2隻体制維持を念頭にマーケットリサーチする」と述べ、投資を継続する意向を示す。両社ともにここ20年、海運市況低迷による厳しい事業環境の中、船齢の長い船1隻で細々とクルーズ船事業を続けてきたが、大きな転換期を迎えている。

「国際停留所」追い風

クルーズ船市場が活況を呈する背景には、東京都が整備した「東京国際クルーズターミナル」の存在も大きい。東京都はクルーズ船を誘致するため、従来の晴海ターミナルでは受け入れられなかった大型クルーズ船が寄港できる東京国際クルーズターミナルを整備。だが、開業した20年はコロナ禍の真っただ中で寄港ができず、3年後の23年5月に受け入れを再開した。

都がクルーズ船誘致のために整備した「東京国際クルーズターミナル」

東京都では今後の市場拡大に対応するため、当初の1バースから、整備を進め2バース寄港できるように拡充。三井オーシャンフジの就航記念イベントでは、にっぽん丸も同時に着岸するなど、東京都の投資の成果を示した。28年には東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランド(OLC)が、東京国際クルーズターミナルを発着拠点にクルーズ船事業に参入。コロナ禍に閑散としていたターミナルも連日、乗降客で賑わいそうだ。

日刊工業新聞 2025年01月01日

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