自動化需要の核、今こそ生かせ”熟練の技”
技能の進化なくして技術の進化なし―。昨今、産業界にあふれかえるデジタル変革(DX)や自動化、人工知能(AI)といった言葉の数々。人手不足を背景に押し寄せる自動化需要の波において核になるのが“人の技”だ。ロボットの動きは人の技能の移植であり、人の技術力を磨かなければロボットの技術も向上しない。はやりのデータ活用も技能者の技や勘所があってこそ。熟練技能者のノウハウを使いこなせるかどうかが日本のモノづくりの将来にかかっている。(高島里沙)
自動化技術進化 知恵・経験、既知をデータ化
「DX、自動化、データ化と言うが、実際にそれが現場・現実・現物で実現し、成果に結びついていくのはこれからだ」。ミツトヨ(川崎市高津区)の沼田恵明社長は、日本のモノづくりの未来をこう見据える。同社は約6000種類の精密測定器を世界に供給する。沼田社長は「(技能者の高齢化が進む中)今こそ製造業に残っているベテラン技術者の能力の発揮しどころ」と語る。
生産現場で欠かせない加工機だが、もちろん経年変化する。寸法公差内であっても、わずかだが誤差は生じる。それが次工程で組み立てる際のずれにつながる。
そこで活躍していたのが技能者だ。微妙な調整を加工機を使いながら改善してきた。技能者には技能向上のために培ってきた経験値がある。データの見るべきポイントなど勘所が分かっている。
加工機をどういじれば良いか、刃物をどの時期に交換すれば不良品を作らずに済むかといった“モノづくりのループ”の知恵を持っている。だからこそデータの活用には技術者が欠かせないといえる。
今後、これまで以上にあらゆるデータが増えていく中で、ミツトヨの沼田社長は「適切なデータを選び、成果に結びつけるつなぎ手こそが技能者だ」と強調する。簡単に生産の自動化といえども、自動的に大量の不良品が出てしまうというリスクを併せ持つ。加工機やロボットを使用する際に誰かが監視し、フィードバックの役目を果たすのが測定で、データの活用に向けた技能者の活躍が期待される。
大手企業においても、工場でDXの取り組みが始まったのはここ数年の話だ。加工機による生産自動化は進みつつあるが、工程の進捗(しんちょく)管理や品質集計などは紙やエクセルなどが一般的だ。そうした情報も全てデータ化することで見える化し、分析・活用に生かそうと奮闘している段階だ。
若手の技能深化 発想・情熱、未知に挑み向上
2024年9月に仏リヨンで行われた「第47回技能五輪国際大会」では若手技能者が技能を競った。過去最多の69カ国・地域から1360人の選手が参加し、日本からは55人が47職種の競技に臨んだ。28年大会の開催地が愛知県に決定。日本では21年ぶりの国際大会の開催となる。若手技能者のさらなる技術向上はもとより、技能者の確保・育成を促す良い機会となりそうだ。
1962年の国際大会初出場以降、技能五輪に並々ならぬ思いをかけるのがトヨタ自動車だ。トヨタ技能者養成所の深津敏昭所長は、「人の手を磨かないと技術力は高まらない」と断言する。加工はデータに残っても「新しいことや未知の世界にチャレンジできる人間に強みがある。発想力や情熱があるのは人間だ」と語る。
技能と技術の進化は相関関係にある。技能をどのように分析して定量化し、さらなる向上を目指すかが重要となる。
国内では日本のモノづくりを下支えする素形材産業の縮小が課題となっている。素形材をはじめ機械工学を目指す学生が減っており、大学においても機械関連の研究室が減少傾向にある。人口減少が進む日本で今後どうすれば力強さを取り戻せるか。DXや自動化による省人化も必要だが、人の知恵や経験を生かすなど技能者の活躍が今こそ求められている。