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気候変動対策は進展・ジェンダー平等に遅れ…日本のSDGs『明』と『暗』

気候変動対策は進展・ジェンダー平等に遅れ…日本のSDGs『明』と『暗』

五島列島沖で稼働する浮体式洋上風力発電

持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて2024年も政府による施策や企業の取り組みがあり、気候変動や資源循環の分野で進展があった。一方でジェンダー平等(性別による格差解消)は改善が見られたが、進捗(しんちょく)が遅い。外国人労働者の受け入れも今後の課題となりそうだ。(編集委員・松木喬)

気候変動対策・資源循環は進展

SDGsの17分野で緊急度が増しているのが気候変動対策(ゴール13)だ。欧州の気象情報機関は11月、24年の世界の平均気温が産業革命前よりも1・5度C以上高かったとする見通しを発表した。単年だが、世界目標の「1・5度C未満」を超えた可能性がある。

一方、国内では温暖化対策が進んだ。環境省によると22年度の温室効果ガス(GHG)排出量は11億3500万トン。森林吸収量の5020万トンを引くと13年度比22・9%減となっている。浅尾慶一郎環境相は11月、アゼルバイジャンで開催された気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)で、「わが国は50年排出ゼロに向けオントラック(軌道上)で削減に取り組んでいる」と強調した。

科学者は、温暖化による深刻な被害を防ぐために25年に世界全体の排出量を減少に転じさせる必要があると分析している。米国で温暖化対策に消極的なトランプ政権が誕生することもあり、25年はゴール13達成への分水嶺(れい)となりそうだ。

広島県廿日市市のメガソーラー造成工事

再生可能エネルギーの導入拡大(ゴール7)も進んだ。経済産業省・資源エネルギー庁は11月、23年度の電源に占める再生エネ比率が22・9%だったと発表した。13年度に比べて12ポイント上昇した。

25年は東京都や川崎市で一部の新築住宅への太陽光パネルの設置が義務化される。さらに25年度中に北九州市で洋上風力発電所の運転開始も予定されており、ゴール7達成に弾みが付きそうだ。

COP29の会場で適応への投資について情報発信したNECの西原基夫CTO(総務省主催のデジタル関連のセミナー)

資源循環(ゴール12)の議論も加速した。政府は5月、再生材の供給量を増やすことを目的とした「再資源化事業高度化法」を成立させた。メーカーが製品に再生材を使いたくても、国内でリサイクルが進んでいなくて再生材が不足していた。さらに政府は8月、循環経済を国家戦略に位置付けた「第五次循環型社会形成推進基本計画」を閣議決定した。

一方、プラスチック廃棄物による汚染を防ぐ条約制定を目指した国際交渉は難航した。12月、条約案をまとめる最終会合が韓国で開かれたが、プラスチックの生産規制をめぐる対立があり、結論を持ち越した。25年中に追加で会合を開き、条約案の制定を目指す。

女性・外国人労働者登用に課題

COP29の会場で適応への投資について情報発信したNECの西原基夫CTO(総務省主催のデジタル関連のセミナー)

達成が危ぶまれているのがジェンダー平等(ゴール5)だ。経団連の調査によると、7月時点で東京証券取引所プライム市場に上場する会員企業716社の役員に占める女性比率は16・8%。23年比2・7ポイント増だが、海外からみると女性リーダーの不在が著しい。世界経済フォーラムが6月に発表した24年のジェンダーギャップ指数で日本は146カ国中118位。過去最低だった23年の125位から改善はしたものの、さらなる向上が期待される。

今後の日本の課題としてクローズアップされそうなのが、外国人労働者の問題(ゴール8、10)。厚生労働省によると23年10月時点で国内で働く外国人は204万人と過去最高だった。外国人労働者は人手不足を補う戦力だが、12日に都内で開かれたシンポジウムで国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長は「日本は給与水準が低い。人手不足の韓国、さらに将来、中国とも人材の争奪戦になると不利になる」と懸念をあらわにした。

6月には国会で、技能実習制度を廃止して新制度に移行する改正入管難民法が成立した。27年の導入が見込まれる新設する「育成就労制度」では、外国人が転籍しやすくなる。企業は働きがいのある職場でなければ、外国人から選ばれなくなる。田中理事長は「意欲のある人材がキャリアアップできる、夢を持って働ける日本を作ることが大事だ」と強調した。

日刊工業新聞 2024年12月27日

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