販売台数は過去最高…活況「中古スマホ市場」の現在地と今後の行方
スマートフォンの再利用の機運が高まる。スマホの高性能化が進み端末価格が上がる中、安価な中古スマホに注目が集まっていることに加え、中古スマホへの信頼性を担保する指針の策定も市場の成長を後押しする。サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現にも寄与する。ただ、新品スマホの販売数量が減ったり、スマホに内蔵する部品の再利用も進んだりすれば、スマホメーカーやサプライヤーにも影響が及びそうだ。(阿部未沙子)
2024年はスマホでの人工知能(AI)の利用が一段と加速した1年だった。例えば米アップルは独自の生成AI「アップルインテリジェンス」を発表した。ただ、高機能化が購買意欲の喚起に結びつくのには時間がかかりそうだ。
「(AIの搭載が)購入の決め手にはなりづらく、価格と性能を比べて選ぶ顧客が多い」と話すのは、ヨドバシカメラの携帯スマートフォンチームの竹垣諒氏。ヨドバシカメラ新宿西口本店(東京都新宿区)のスマートフォン館には新品のスマホが並び、カメラ性能や保存容量を来店者から聞かれることが多いという。
こうした中、販売台数を伸ばすのが中古スマホだ。MM総研(東京都港区)によると、23年度の中古スマホの販売台数は過去最高の272万台。28年度には23年度比60・6%増の438万台と予測した。
中古品を取り扱う店舗はどうか。ソフマップ(東京都千代田区)は中古品のスマホやパソコン(PC)などの買い取り・販売をする店舗を東京・池袋に8月にオープンした。池袋店での10月の中古スマホの買い取り点数は704点で、9月の425点を上回った。アイフォーンの買い取り額の上限を引き上げるキャンペーンも増加に寄与した。
池袋店の見上卓三店長は「特にアイフォーン14シリーズの買い取りが多かった」とし、販売面でも「台数ではアイフォーンが圧倒的に多い」という。アイフォーンシリーズの平均単価は7万―8万円程度と新品より安い。ほかにも中華系スマホなどへの引き合いもあるようだ。
中古携帯端末販売の業界団体であるリユースモバイル・ジャパン(RMJ、東京都千代田区)の有馬知英理事長は中古スマホについて「順調に成長している」と述べ、その理由を「中古スマホへの不安の払拭をしてきたため」と語る。例えばデータ消去処理や、電池状態の表示といった指針の策定があげられる。
循環経済、部品に波及 修理しやすさ、差別化要素に
中古スマホの再利用には修理が伴う場合がある。携帯端末登録修理協議会(MRR、東京都豊島区)の伊藤幹典事務局長は「修理依頼の8―9割がバッテリー(電池)と表示装置(画面)」だと話す。正規サービスプロバイダーのほか登録修理業者、非登録修理業者が存在する。登録修理業者や非登録修理業者は純正部品と同等の部品を、主に中国から調達するという。
使用済みの部品などを再利用する「リマニュファクチャリング」にもつながり、循環経済の実現を後押しする。実際、中古スマホから状態のよい部品を取り出して同機種のスマホに再利用する動きは国内メーカーの端末で多くあるようだ。ただ「他社製の部品をそのまま利用するのは、設計の観点で難しい」(伊藤事務局長)。
加えて電波法による規制で修理できる内容は限られる。例えば、登録修理業者は基板の修理は許されておらず、基板に実装された部品を交換することはできない。ただ「非登録修理業者では基板修理を請け負う人も中にはいる」(伊藤事務局長)と抜け道はある。
また、ある電子部品業界の関係者は「リマニュファクチャリングについては、まだ大きな動きにはなっていない」としつつも、ICT機器向けで「リペアビリティー(修理のしやすさ)への対応が(電子部品メーカーにとっての)差別化の要素になっている例はある」(同)と話す。
将来、通信面での規制緩和により中古スマホ市場は拡大する見通し。具体的にはネットワーク利用制限があげられる。代金が未払いだったり紛失したりした場合に通信を制限するもので、中古スマホを扱う事業者にとって、ネットワーク利用制限があるスマホを買い取ることは難しい。
ただ、ネットワーク利用制限をめぐっては「緩和する方向にいくのではないか」(MM総研の横田英明取締役副所長)との見方があるほか、「中古市場の端末買い取りのチャンスが広がるのではないか」(有馬RMJ理事長)との声もある。スマホメーカーなどは、再利用拡大を見据えたビジネスモデルの構築が求められそうだ。