三菱自動車、繰り返される背信。「信頼」地に落ちる
軽の燃費偽装。経営に大打撃、この会社はこれからどうなるのか
三菱自動車は20日、軽自動車の燃費を実際より良くみせるため、試験データを不正に操作していたと発表した。対象は三菱自の「eKワゴン」や日産自動車向けに生産する「デイズ」など計4車種62万5000台。該当車の生産と販売を停止した。その他の車種でも不正がないか調査中。業績への影響は未定としている。相川哲郎社長兼最高執行責任者(COO)は同日都内で会見し「不正は意図的だった。すべての関係者に深くおわび申し上げる」と謝罪した。
車両走行時のタイヤや空気などの抵抗値を意図的に操作し、実際より燃費が良くなるよう国土交通省に届け出ていた。実際の燃費は国交省への届け出値より5―10%悪化する可能性が高いという。今後、海外向け車両も調査する。相川社長は「かなり(業績への)ダメージは大きい」との認識を示した。
軽の開発や生産で合弁事業を手がける日産が燃費性能を調べたところ数値に開きがあり、三菱自に確認を求めた。両社は2月に共同調査し、その後の三菱自の調べで不正が発覚した。
三菱自は燃費性能の不正であり、保安基準に適合していればリコール(回収・無償修理)の対象にはならないとしている。ただ燃料費の差額の補償など顧客への対応については今後協議する。また外部の有識者による調査委員会を設置し、不正の経緯などを調べて結果を公表する。
相川社長は会見で問題の解決や再発防止の道筋をつけることが先決だと強調。自らの進退などは「考えてない」と述べた。
三菱自動車が軽自動車で不正に燃費をつり上げていたことが20日発覚した。2000年のリコール隠し問題に伴う経営危機から再建を果たし、成長軌道に乗りかけた段階での今回の不祥事。度重なる顧客をあざむく行為は信頼失墜を免れない。軽で協業する日産自動車の業績にも影響を及ぼすのは必至で、両社の信頼関係にもひびが入りそうだ。
相川哲郎社長は同日の会見で「(リコール隠し問題以降)石垣を積むように改善を進めてきたが全社員にコンプライアンスを徹底することの難しさを感じた。無念だ」とした。
三菱自はリコール隠し問題で顧客が離れ経営危機に陥った。三菱グループの支援を受けながら選択と集中を進め業績を回復。14年に16年ぶりの復配にこぎ着け再建から成長にかじを切った。
この間コンプライアンス徹底を進めたが、不正を産む企業体質は変わっていなかった。14年度は過去最高の営業利益を記録。軌道に乗りかけただけに今回の不正が経営に与える影響は少なくない。
影響は日産にも及ぶ。不正対象車63万台のうち、日産の販売分が大半を占める。ダイハツ工業とスズキなどが軽市場で激しい競争を繰り広げる中で、日産とタッグを組んだ。相川社長は「日産との信頼回復に全力を尽くしたい」と協業を継続したい意向を示したが、日産が三菱自に背を向ける事態になれば同社の生き残りは一層難しくなる。
三菱自動車の相川哲郎社長兼COOの一問一答は次の通り。
―ユーザーや販売店にどう対応するのか。
「大変申し訳なく思っている。燃料代を含めて(補償など)具体的な対応策についてはこれから検討する」
―業績への影響は。
「現在、検討している段階で時間がほしい。単純な案件ではなくどこまで影響が広がるか見えていない。かなり(業績への)ダメージは大きい」
―いつ燃費不正問題を知ったのか。
「4月13日に報告を受けて認識した」
―日産から指摘されなければ、問題に気づかなかったのか。
「社内での自浄作用が働いていない。社内プロセスを変えなければならない」
―なぜ不正が起きたのか。
「調査中で私自身まだ把握していない。経営者として責任を感じている」
―自身の進退は。
「まず今はこの問題を一刻も早く解決し、再発させない道筋をつけるのが役割だと認識している。それ以上のことは現時点では申し上げられない」
三菱自動車が発表した軽自動車に関する燃費不正は、2000年代初頭に悪質なリコール隠しを引き起こした同社の法令順守(コンプライアンス)に関する体制が、いまだ十分に確立されていないことを明らかにした。三菱自はまず、原因究明と顧客対応に全力を尽くすことが必要だ。ただ、これが同社の経営に与える打撃は大きく、信頼回復は容易ではない。
20日の記者会見で相川哲郎社長は「一つ一つ石垣積み重ねるように(体質を)改善してきたが、全社員にコンプライアンス意識を徹底させることの難しさを感じている。無念であり、忸怩(じくじ)たる思い」と述べた。
不正の対象は、13年6月から生産している「eKワゴン」「eKスペース」と、それぞれの日産自動車に相手先ブランド供給(OEM)している「デイズ」「デイズルークス」の4車種、約62万5000台だ。三菱自と日産との軽自動車開発における協業の第1―2弾だった。
燃費計測にあたり、ベースとなる空気抵抗と転がり抵抗の値が小さくなるようにデータを修正していた。これにより5―10%、燃費値が改善するように見せかけていた。協業先の日産からの指摘で判明したという。
問題の車種の開発当時は、ガソリン1リットル当たり30キロメートルを超える車種が競合他社から立て続けに発売され、軽自動車が「第三のエコカー」ともてはやされて開発競争が激化していた時期である。担当者へのプレッシャーが相当に大きかったことは想像に難くない。しかし、それで不正が許されるはずもない。
独フォルクスワーゲンは、違法なソフトでディーゼル車の排出ガス制御を切り替える不正を働き、世界的な問題となった。内容は違うが、消費者の車両購入動機を左右する不正が日本勢から出てしまったことは残念でならない。
車両走行時のタイヤや空気などの抵抗値を意図的に操作し、実際より燃費が良くなるよう国土交通省に届け出ていた。実際の燃費は国交省への届け出値より5―10%悪化する可能性が高いという。今後、海外向け車両も調査する。相川社長は「かなり(業績への)ダメージは大きい」との認識を示した。
軽の開発や生産で合弁事業を手がける日産が燃費性能を調べたところ数値に開きがあり、三菱自に確認を求めた。両社は2月に共同調査し、その後の三菱自の調べで不正が発覚した。
三菱自は燃費性能の不正であり、保安基準に適合していればリコール(回収・無償修理)の対象にはならないとしている。ただ燃料費の差額の補償など顧客への対応については今後協議する。また外部の有識者による調査委員会を設置し、不正の経緯などを調べて結果を公表する。
相川社長は会見で問題の解決や再発防止の道筋をつけることが先決だと強調。自らの進退などは「考えてない」と述べた。
日産の業績にも影響、両社の関係にひび
三菱自動車が軽自動車で不正に燃費をつり上げていたことが20日発覚した。2000年のリコール隠し問題に伴う経営危機から再建を果たし、成長軌道に乗りかけた段階での今回の不祥事。度重なる顧客をあざむく行為は信頼失墜を免れない。軽で協業する日産自動車の業績にも影響を及ぼすのは必至で、両社の信頼関係にもひびが入りそうだ。
相川哲郎社長は同日の会見で「(リコール隠し問題以降)石垣を積むように改善を進めてきたが全社員にコンプライアンスを徹底することの難しさを感じた。無念だ」とした。
三菱自はリコール隠し問題で顧客が離れ経営危機に陥った。三菱グループの支援を受けながら選択と集中を進め業績を回復。14年に16年ぶりの復配にこぎ着け再建から成長にかじを切った。
この間コンプライアンス徹底を進めたが、不正を産む企業体質は変わっていなかった。14年度は過去最高の営業利益を記録。軌道に乗りかけただけに今回の不正が経営に与える影響は少なくない。
影響は日産にも及ぶ。不正対象車63万台のうち、日産の販売分が大半を占める。ダイハツ工業とスズキなどが軽市場で激しい競争を繰り広げる中で、日産とタッグを組んだ。相川社長は「日産との信頼回復に全力を尽くしたい」と協業を継続したい意向を示したが、日産が三菱自に背を向ける事態になれば同社の生き残りは一層難しくなる。
相川社長「ダメージ」かなり大きい
三菱自動車の相川哲郎社長兼COOの一問一答は次の通り。
―ユーザーや販売店にどう対応するのか。
「大変申し訳なく思っている。燃料代を含めて(補償など)具体的な対応策についてはこれから検討する」
―業績への影響は。
「現在、検討している段階で時間がほしい。単純な案件ではなくどこまで影響が広がるか見えていない。かなり(業績への)ダメージは大きい」
―いつ燃費不正問題を知ったのか。
「4月13日に報告を受けて認識した」
―日産から指摘されなければ、問題に気づかなかったのか。
「社内での自浄作用が働いていない。社内プロセスを変えなければならない」
―なぜ不正が起きたのか。
「調査中で私自身まだ把握していない。経営者として責任を感じている」
―自身の進退は。
「まず今はこの問題を一刻も早く解決し、再発させない道筋をつけるのが役割だと認識している。それ以上のことは現時点では申し上げられない」
許されない不正、信頼回復は容易ではない
三菱自動車が発表した軽自動車に関する燃費不正は、2000年代初頭に悪質なリコール隠しを引き起こした同社の法令順守(コンプライアンス)に関する体制が、いまだ十分に確立されていないことを明らかにした。三菱自はまず、原因究明と顧客対応に全力を尽くすことが必要だ。ただ、これが同社の経営に与える打撃は大きく、信頼回復は容易ではない。
20日の記者会見で相川哲郎社長は「一つ一つ石垣積み重ねるように(体質を)改善してきたが、全社員にコンプライアンス意識を徹底させることの難しさを感じている。無念であり、忸怩(じくじ)たる思い」と述べた。
不正の対象は、13年6月から生産している「eKワゴン」「eKスペース」と、それぞれの日産自動車に相手先ブランド供給(OEM)している「デイズ」「デイズルークス」の4車種、約62万5000台だ。三菱自と日産との軽自動車開発における協業の第1―2弾だった。
燃費計測にあたり、ベースとなる空気抵抗と転がり抵抗の値が小さくなるようにデータを修正していた。これにより5―10%、燃費値が改善するように見せかけていた。協業先の日産からの指摘で判明したという。
問題の車種の開発当時は、ガソリン1リットル当たり30キロメートルを超える車種が競合他社から立て続けに発売され、軽自動車が「第三のエコカー」ともてはやされて開発競争が激化していた時期である。担当者へのプレッシャーが相当に大きかったことは想像に難くない。しかし、それで不正が許されるはずもない。
独フォルクスワーゲンは、違法なソフトでディーゼル車の排出ガス制御を切り替える不正を働き、世界的な問題となった。内容は違うが、消費者の車両購入動機を左右する不正が日本勢から出てしまったことは残念でならない。
日刊工業新聞2016年4月21日