再生エネ拡大へ…大手生保が活用注力、「バーチャルPPA」との親和性
大手生命保険会社が遠隔地の発電所から再生可能エネルギーの環境価値だけを調達する「バーチャルPPA(電力販売契約)」の活用に力を入れている。住友生命保険は2026年からプロロジス(東京都千代田区)の物流施設で発電した太陽光発電の環境価値を20年契約で取得する。第一生命保険は電力ベンチャーと20年契約を結んだ。バーチャルPPAは場所にとらわれずに環境価値を購入できることが特徴だ。全国に営業拠点を持つ生保と親和性が高く、他の金融機関も関心を寄せている。
「使い勝手のよいスキームだ」。住友生命不動産企画室の熊田久美子室長は、バーチャルPPA活用の理由をこう語る。
同社はこれまで太陽光発電所から電力系統を介して再エネを調達する「オフサイトコーポレートPPA」を利用してきた。しかし、調達できる場所が首都圏や大阪など大都市圏に限られ、課題と捉えていた。一方、バーチャルPPAは環境価値(非化石証書)のみを仮想的に調達でき、立地制約から自由になる利点がある。
26年から20年にわたる今回の契約で、住友生命が使用する電力の約498万キロワット時(2023年度電気消費量の約8%)を実質的に再エネに置き換えられる見込みだ。
第一生命はクリーンエナジーコネクト(東京都千代田区)が全国24カ所に設置する太陽光発電の電力で創出された環境価値を取得する。契約期間は25年から約20年間。第一生命はバーチャルPPAを「全国規模で自社不動産を多数保有する当社が環境価値を効率的に得るための合理的な選択肢の一つ」と説明する。
保険業以外の金融機関も関心を寄せる。三菱UFJ銀行は大阪ガスなどと、ヒツジの放牧と太陽光発電を共存させるユニークな仕組みで20年間のバーチャルPPAを締結した。
バーチャルPPAは、通常の電力を使用したまま環境価値のみを購入する。既存のビルの電力会社を変更するなどの手間を省ける反面、環境価値の購入分だけ余計にコストがかかる点がデメリットとされる。住友生命の熊田室長は「脱炭素社会の構築に向けた必要投資」と強調する。
金融機関は大量の電力を使う製造業と比べ、営業所の照明を省エネ型の発光ダイオード(LED)に切り替えるなど脱炭素施策は大がかりなものにならない傾向がある。ただ、大手生保や銀行などは全国に拠点網を築き、各拠点で使う電力のグリーン化は、脱炭素施策のテーマとして重要性が高まっている。バーチャルPPAは有効な施策の一つとして、広がりを見せそうだ。
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