海産物取れない・スキー場危機…気候変動が直撃、対策強化求む関係者の声・声・声
新しい温室効果ガス(GHG)排出削減目標を決める政府内の議論が大詰めを迎える中、漁業や農業、観光などの関係者が会見し、気候変動対策の強化を訴えた。温暖化による被害を受けており、経営への影響が出ているためだ。排出量の前提となる電源構成を決める第7次エネルギー基本計画の議論も進んでおり、企業グループも再生可能エネルギーの導入拡大を求めている。(編集委員・松木喬)
海産物・農作物がとれない
「サザエ3個で大漁。すごく漁獲量が減っている」。3日、都内で開かれた記者会見で神奈川県葉山町の漁師、長久保晶さんが報告すると会場に衝撃が広がった。
長久保さんが紹介した10年前の海中写真は海藻が繁茂していた。今は茎しか残っていない。海水温の上昇によって増えた魚が食べ尽くしたためだ。海の生態系が崩れ、サザエも育たなくなった。「恐ろしい海になった」と温暖化による惨状を語った。
会見は気候変動対策の強化を訴える日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP、252社)が開いた。長久保さん以外にも気候変動問題に危機感を抱く団体などの関係者が発言した。
野菜を生産するファーマン(山梨県北杜市)の井上能孝代表は、高温によって病気になった白菜の写真を示した。「20年前、このような症状はまったくなかった。収支に直接、影響を与えている」と肩を落とした。
暖冬…スキー場危機/猛暑…停滞
温暖化の被害は夏だけではない。プロスキーヤーの河野健児選手は、スキー場経営の苦境を紹介した。雪不足によるスキー客の減少は、周辺の宿泊業にも影響がおよぶ。野沢温泉観光協会(長野県野沢温泉村)の会長である河野選手は「スキー場がつぶれたら、村がつぶれる。雪解け水がなければコメもつくれなくなり、生活に大きな影響が出る」と窮状を訴えた。
JCLPの今井雅則共同代表(戸田建設会長)は、ファンが付いた作業着を着用して登場した。建設作業者は酷暑での作業を強いられ、熱中症による死者が増えている。「夏の暑い時、建設作業はできない。これでは日本の経済が止まる」と強い危機感をあらわにした。
気候変動による深刻な被害を防ぐには、世界のGHG排出量を急速に減らす必要がある。国連は各国に2035年の排出削減目標の提出を奨励しており、政府内で目標が検討されている。
JCLPは11月28日、35年度目標として「13年度比75%以上削減」を求める提言書を経済産業相と環境相に手交した。エネルギー基本計画の議論に対しても35年度の「再生エネ比率60%以上」を要請した。23年度の再生エネ比率は22・9%だ。
【脱炭素=企業の評価基準】再生エネ拡大の声
海外では脱炭素を基準に企業を評価する流れがあり、事業活動にも排出削減が欠かせない。JCLPの三宅香共同代表(三井住友信託銀行フェロー役員)は浅尾慶一郎環境相との面談で「日本は再生エネを入手しづらい。企業は国際競争力の観点から再生エネを入手したい」と再生エネの拡大を求めた。
JCLPは要望書で再生エネ普及による経済的メリットにも触れている。日本は化石燃料の輸入のために年30兆円を海外に支払っているが、再生エネ比率が60%となると10兆円を低減できる。
また、中小住宅メーカーの立場から手交に参加したエコワークス(福岡市博多区)の小山貴史社長は「政府が高い目標を掲げることで、中小建築業としても予見性を持った経営ができる」と目標の強化を求めた。
提言書を受け取った浅尾環境相は「脱炭素化ができなければ、企業の競争力が落ちるというのはその通りだと思う。しっかりと提言を受け止め、物事を進めていきたい」と語った。
環境省と経済産業省の合同会合は11月下旬、35年度「13年度比60%減」を軸とする案を提案した。年内にも目標案を正式に決める見通しだ。
地方ほど気候変動の被害を受けている。漁業や農業、観光業、そして企業の切実な訴えは政府にも届いているはずだ。