GAFAMと「共存する」…富士通が「AI戦略」加速、いち推しの新技術はこれだ
攻撃に先回り対応/高度映像解析
協調型のマルチ人工知能(AI)エージェントで先手―。富士通のヴィヴェック・マハジャン副社長は12日、川崎市中原区で会見し、「世界で戦える独自AIへの挑戦」を掲げ、エンタープライズ事業を支えるAI戦略について説明した。注目される巨大なハイパースケーラー(GAFAM)との競合に関しては「敵でなく、共存する」と言及。その上で「機密情報の扱いやカスタマイズなどの顧客ニーズに応えることで当社の強みを発揮できる」と語った。(編集委員・斉藤実)
いち推しの新技術は「マルチAIエージェントセキュリティ」。攻撃や防御などのセキュリティーに特化したスキルやナレッジを持つ複数のAIエージェントを連携させ、生成AIへの攻撃などの新たな脅威にプロアクティブ(先回り)に対応する。生成AIで提携しているカナダのコヒアを通じて12月から技術実証を始める。
マルチAIエージェントはセキュリティーだけでなく、汎用的に利用可能。岡本青史執行役員EV兼富士通研究所所長は「複数のエージェントが相互作用しながら学ぶ『共創学習』と、連携の際にプライバシーやセキュリティーリスクのポリシーをつかさどる『セキュア・エージェントゲートウエイ』、全体を最適化する『AIワークフロー制御』の三つがカギとなる」と同技術の世界観を語った。
プロアクティブ対策ではイスラエルのベングリオン大学と共同開発した技術を搭載した。セキュリティー耐性を自動で確認する「LLM脆弱(ぜいじゃく)性スキャナー」と、攻撃を自動的に防御・緩和できる「LLMガードレール」も同大と共同開発した。
もう一つの目玉は「映像解析型AIエージェント」。製造や物流などの現場で設置したカメラの映像、作業指示や規則などを参照し、人手を介さず自律的に現場改善の提案や作業リポートの作成などを支援する。
同AIエージェントはマルチモーダル大規模言語モデル(LLM)をベースとして、現場の3次元空間を映像認識する能力を獲得する自己学習技術や長時間の映像を高精度に解析できるコンテキスト記憶技術を搭載した。
性能評価に当たり、AIエージェントの評価環境「フィールドワークアリーナ」を米カーネギーメロン大学の監修で開発。プログラムのウェブ共有基盤「ギットハブ」などで公開する。映像解析型AIエージェントは25年1月から社内実践を行う。
12日、体験型の技術展示会も開催し、海洋の状態をデジタル空間に再現する「海洋デジタルツイン」などを紹介した。海藻が発する温室効果ガス(GHG)の様子をデジタルで再現するなど、海洋環境モニタリングへの適用例を示した。
AIを軸にした技術融合で研究戦略全体を加速させる方針だ。
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