ソニーなど受注実績…東大発ベンチャーが量産へ、小型衛星動かす「水エンジン」のポイント
Pale Blue(ペールブルー、千葉県柏市、浅川純社長)は、東京大学発ベンチャーで、小型衛星を動かす推進機の開発・製造を手がける。水を推進剤にしているのが特徴で、コスト削減と宇宙環境への配慮を両立できるのがポイントだ。2022年から販売を始めており、すでにソニーや韓国の延世大学などグローバルに受注実績がある。今後も期待できる需要の増加に対し、高品質な推進機を安定的に大量生産できる体制の構築を目指している。(編集委員・中沖泰雄)
イーロン・マスク氏が率いる米スペースXが提供する低軌道衛星通信サービス「スターリンク」など人工衛星を活用した事業が活発化している。ペールブルーがターゲットにする小型衛星については、現在、世界で数百社が活用し、地球観測や通信、IoT(モノのインターネット)などの事業を進める。
重量が数百キログラム以下の小型衛星の需要が大きく伸びる背景には、これまでの重量が数トンクラスの大型衛星と比べ、製造コストを大幅に削減できることがある。その中で同社の推進機がさらに注目されるのは、水を推進剤にしているためだ。
キセノンやヒドラジンを推進剤に使用する推進機と比べ、燃料に加え、取り扱いや輸送などコストを大幅に削減できる。低コストで安全な上、水は完全に無害で、宇宙への環境負荷も低い。
さらなる需要の増加が期待できることから、栁沼和也取締役は「当初の事業計画通りに順調に進んでいる」と自信を深める。グローバルに引き合いも増える中で「一番のエンジニアが、一番の環境で、推進機を生産している。品質がいいのは当たり前だ」と強調する。
ただ、課題はこのような高品質な推進機を増加する需要に安定的供給できるのかということだ。この課題を解決するため、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に採択された「ディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業」の量産化実証の一環として東京計器と協業。量産技術を確立するために量産試作機を共同で製造し、コストや製造期間、品質を評価する。
さらに25年内をめどに茨城県つくば市に生産技術を開発する拠点も設ける。同市に約1900平方メートルの用地を取得し、推進性能計測システムを使用して真空環境で推進力確認・評価する真空チャンバーや、内部で推進機を組み立てるクリーンルームなどを設置する。
ペールブルーの事業目標は推進機にとどまらない。最初に同社が開発したのは水を加熱して発生した水蒸気を推進力にする推進機だ。さらに、この技術と、マイクロ波と強力な磁石で発生させた水プラズマによる推進力を組み合わせるなど複数の推進技術を開発。
栁沼取締役はこれらの技術を活用し「宇宙のインフラ構築に力を入れる。輸送サービスを幅広く手がけていきたい」との考え。推進技術を進歩させて事業の可能性を広げる。
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