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NEC、100万台以上の蓄電池をまとめて遠隔から同時制御

「仮想発電所」は新ビジネスになるか
 電力小売りが全面的に自由化され、異業種が電力販売に参入した。2020年に発送電分離へと進むと、新しい電力ビジネスが登場する。その一つが、小規模な電源を束ねて一つの発電所のように扱う「バーチャルパワープラント」(仮想発電所)だ。NECは100万台以上の蓄電池をまとめて遠隔から同時制御する技術を開発し、新ビジネスを支援する準備を整えた。

 「インフラ投資を減らすシェアードエコノミー(共有型経済)だ」。スマートエネルギー事業部の本林稔彦エグゼクティブエキスパートは、蓄電池の遠隔制御技術の効果をこう説明する。家庭やビル、工場で節電のために日常的に使われている蓄電池を系統安定化にも活用できるからだ。

 太陽光や風力など出力が目まぐるしく変わる再生可能エネルギーの導入が増えると、電力を届ける系統は不安定化しやすくなる。出力の急変で周波数や電圧の乱れが起きるためだ。電力会社は変動吸収のために火力発電所を待機させている。変動に備える火力発電は「調整力」と呼ばれる。

 NECの制御技術は、調整力を家庭やビルなどの蓄電池に担わせる。クラウドが”頭脳“となり、変動吸収に必要な電力量を計算する。充電残量など蓄電池100万台以上のビッグデータもクラウドが監視し、吸収に必要な電力量を配分しながら充放電する蓄電池を決める。吸収に必要な電力量は数十分間隔で見直し、蓄電池には秒単位の短い時間の充放電量を振り分ける。

 実際に出力変動が起きると、蓄電池の充放電で周波数や電圧の乱れを取り除く。蓄電池は、1台の出力が3キロワット(NEC製)と小さい。しかし、10万台を束ねると30万キロ、20万台なら60万キロワットの出力を生み出す。

火力代替、社会的なコスト抑制


 蓄電池は小さな電源だが、ICTでまとめると火力発電に匹敵し、“仮想発電所”となる。しかも家庭などの蓄電池を一時的に調整力として活用するので、新たな蓄電池の投資を抑えられる。

 火力発電の新設や維持費も減り、社会的コストを抑制できる。発送電が分離されると仮想発電所を運用する新ビジネスが出てくると想定されており、NECは蓄電池の遠隔制御技術を提案している。

 再生エネの有効利用にも制御技術は生かせる。再生エネの発電量が増えすぎたタイミングで離れた場所の蓄電池に充電の指示を出すと、系統内で使い切れない余剰電力の発生を抑えられる。

 現状では余剰電力が発生しそうだと、再生エネ発電事業者は売電を停止する。制御技術を使うと「(売電を停止する)出力抑制を最小限にし、再生エネを最大限活用できる」(本林エグゼクティブエキスパート)。

 中野嘉一郎シニアエキスパートは遠隔制御技術について「大量の蓄電池をリアルタイムに制御できるのが特徴」と強調する。実用化はまだ先だが「制御する機器が増え、扱うデータが増えるほど精度が向上する」(中野シニアエキスパート)と自信をみせる。
(文=松木喬)
日刊工業新聞2016年4月18日 
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
技術的には仮想発電所は実現できそうです。ただ、課題はいくつかあります。まず、仮想発電所を運営するビジネスが出てくるかどうか(アンシュラリーサービス、アグリゲーター、ネガワット取引の形態)。そして調整に協力した蓄電池にどうやって協力金を支払うか、その原資は。また蓄電池がどこまで普及するかもカギです。

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