資機材高騰、投資に課題…脱炭素へJERAが見直し訴える”火力の価値”
脱炭素へエネ議論に一石
「火力発電の重要性を見直す必要がある」。JERAの奥田久栄社長は、27日に開いた定例会見でこう主張した。ガス火力は石炭に比べ二酸化炭素(CO2)排出量が少なく、再生可能エネルギーの出力変動などを柔軟に補える欠かせない電源だ。だが足元で資機材が高騰し、このままでは設備投資が困難になるという。発電大手として日本のエネ議論に一石を投じる。(梶原洵子)
再生エネの導入拡大はガス火力が支えている―。現状はそう言えるかもしれない。太陽光や風力発電の出力は気象条件で変動し、電力需要も季節で変動する。電気は需要と供給を一致させる必要があるため、供給側は常に発電量を調整しなければならない。今は、ほぼ全ての調整をガス火力が担っている。
JERAは再生エネと同時に火力の増強を進め、2029年度に運転開始予定の知多火力発電所(愛知県知多市)7、8号機は最終投資決定が目前となった。だが「LNG(液化天然ガス)で全てのしわ取り(需給変動の調整)をするのは限界だ」と奥田社長。燃料、人材、設備の全てに課題がある。
というのも、ガス火力での調整は燃料使用量の増減も伴うが、購入量の大幅な増減を許してくれる売り手はいない。労働人口が減少する中、頻繁な出力変動で過負荷状態の設備を安全に運転できる人材の確保も難しい。
現実的なCO2排出削減策かつ優秀な調整力のガス火力は世界でブームとなっており、ガスタービンなどの価格が高騰している。電気料金が上昇した欧州勢などは高値でも資機材を買うが、「値上がりについていけない国も出てきている。日本もそうだ。火力の柔軟性に価値が付かないと設備投資できない」(奥田社長)と訴える。
そこで同社が取り組むのが、火力の価値を適正に評価する仕組みづくりだ。関係各所に働きかけ「再生エネと火力の生き残りはセットだと理解してもらえた」(同)。さらなる議論推進を目指す。
とはいえ、火力の価値を見直すことで脱炭素の流れに逆行してはいけない。再生エネ拡大を受け止められるように、各電源の組み合わせや役割を考える必要がある。例えば蓄電池で時間単位の調整、不需要期の春秋に石炭火力を休止して季節調整を担うなどの役割分担を行えば、ガス火力への依存を減らせる。新技術による需要家側の大幅な省エネルギー化もエネ戦略に組み込む必要があるだろう。
資機材の高騰は風力発電でも起きており、脱炭素および電源構成の変化に伴うコスト負担の議論は喫緊の課題だ。「エネルギーだけではなく、産業構造とセットで議論しなければならない。国民の同意も必要だ」と奥田社長。実際に、ドイツは電気料金の急激な上昇が自動車産業を大きく揺るがせている。
誰かがタダで脱炭素を実現してくれることはない。産業構造をどう稼げる形に変え、脱炭素の速さがどの程度であればコスト増を許容できるのか。エネルギー関係者任せではない議論が求められる。