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セブン&アイ、“ポスト鈴木”体制の課題は?

高収益体質へ、鈴木イズムは簡単に揺らぐことはない
セブン&アイ、“ポスト鈴木”体制の課題は?

セブン&アイHDの新社長になる井阪氏

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)は井阪隆一セブン―イレブン・ジャパン社長をセブン&アイHD社長に、古屋一樹セブン―イレブン副社長をセブン―イレブン社長に昇格させる人事を固めた。鈴木敏文HD会長は最高顧問となり、村田紀敏HD社長は退任する。指名・報酬委員会に諮り19日の取締役会で決める。同社の今後の焦点は“ポスト鈴木”体制が高収益体質を維持できるかに移る。

 流通業界では「カリスマがいなくなった組織はもろい」(大手小売業)との指摘が少なくない。ダイエー、マイカルといった過去の事例から、「偉大なカリスマの号令一下で動いてきた組織は、(カリスマがいなくなると)何をしていいのか立ち往生してしまう」(同)との懸念を、セブン&アイHDに持つ見方もある。

 セブン&アイHDでは、長年同社を率いた鈴木会長のスローガン「変化への対応、基本の徹底」「仮説と検証」という考え方が、“バイブル”として組織に深く浸透している。ヒット商品の入れ立てコーヒーで、井阪セブン―イレブン社長は「何度も失敗した」と話すが、“仮説と検証”を繰り返して修正。2015年度は8億5000万杯、売上高930億円の大型商材に育てた。

 人事における反目が表面化したが、井阪社長を含む新体制の幹部は、消費者目線で商品を徹底的に作り込む鈴木会長の成功モデルを目に焼き付けてきた。井阪社長自身、「鈴木会長を尊敬している」ということもあり、新体制の経営手法がぶれる可能性は少ない。結論をいえば衆目を集めた今回の騒動を経ても、業界におけるセブン&アイHDの優位は揺らぎそうもない。

 セブン&アイHDは人材の層の厚さでも知られる。競合するファミリーマートはユニーグループ・ホールディングスと9月に経営統合。コンビニ事業はセブン―イレブンに匹敵する店舗数となり、セブン―イレブンを追撃する。

 しかし実はファミマの現在の取締役専務執行役員商品本部長である本多利範氏はセブン―イレブン出身で、かつて社長候補と目されていた人物。すでにファミマでも弁当や総菜の改革に着手、成果を出している。

 平均日販で競合他社を10万円上回る競争力の源泉は、こうした人材の層の厚さにもある。経営の主導権を巡る争いを経ても、セブン―イレブンの覇権を突き崩すのは困難といえそうだ。
(文=森谷信雄)
日刊工業新聞2016年4月19日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
セブン&アイ会長を退任することになった鈴木敏文氏は「鉄血宰相」の異名を取ります。ビスマルクのように国産コンビニという業態を確立させ、流通業界を近代化に導いたからです。そして妥協を許さない絶対の追求主義は今のセブン―イレブンの根幹を成しています。このセブン&アイに流れる鈴木イズムは簡単に揺らぐことはないでしょう。

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