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社会実装近づく「P2P電力取引」、なぜ個人が電気を高く売って安く買えるのか

再生エネ普及を後押し

電力を個人間で売買するピア・ツー・ピア(P2P)電力取引が社会実装段階に入ってきた。住宅などの太陽光発電や蓄電池の余剰電力を専用市場で自動的に売買し、最大限活用する仕組みだ。電力大手の仲介よりも再生可能エネルギー電気を高く売って安く買えるようにし、再生エネの普及を後押しする。東京都世田谷区では住宅300軒が参加する実証が始まる。新しい電力取引の形態として注目される。(梶原洵子)

なぜP2P電力取引では個人が電気を高く売って安く買うことができるのか。同取引システムを開発し、世田谷区の実証にも参画するTRENDE(トレンディ、東京都千代田区)の妹尾賢俊代表取締役は、「我々の手数料を少なく抑えられるからだ」と説明する。

同社のシステムは人工知能(AI)などを使い、P2P電力取引市場に参加する住宅や事業拠点の電力消費や余剰電力を予測して自動的に電気を売買する。運用に人手がいらず、参加者が増えるほどスケールメリットが働いてコスト負担も減る。また、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使って取引情報の信頼性を担保する。

個人間取引といっても、参加者が株式トレーダーのように電気を取引することはない。参加者はP2P電力取引システムを導入した小売電力事業者と契約するだけで、あとは参加者の経済メリットが大きくなるようにシステムが背後で働く。

親会社の伊藤忠商事と全国農業協同組合連合会(JA全農)がTRENDEのシステムを使って群馬県内のモデル地区で行ったP2P電力取引では、全ての参加者に経済的なメリットが出たという。

「理想としては、P2P電力取引で電気の地産地消モデルをつくりたい」と妹尾代表は話す。地域内で同取引の市場を作って再生エネ電気を売買すれば、地元でお金を回せる。この特徴は脱炭素化と同時に、地域活性化を図りたい地方自治体の考えとも一致している。

同社のシステムは愛媛県で行う東芝インフラシステムズとの実証のほか、世田谷区やJERAなどとの実証にも採用が決まった。世田谷区の取り組みは300軒の参加を想定しており、従来より規模の大きなものだ。デマンドレスポンス(DR、電気の需給バランス調整)を導入し、管理の高度化を試みる。規模や仕組みの面で進展してきた。

参加者としては「P2P電力取引によってきれいな電気を安く買える可能性がある」(妹尾代表)こともメリットだ。そのためには認知度を高め、参加者を増やすことがカギとなる。同取引で取り扱う再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の買い取り期間が満了した卒FIT電力など、余剰電力の売り先は多い。卒FIT電力で電車を走らせようとしている鉄道会社などもライバルだ。

一方、営業面では「自治体から引き合いは多いが、当社のリソースには限りがある」(同)とも。伊藤忠や東芝インフラシステムズに加え、連携先を増やしていく考え。2、3年後の卒FIT電力増加を見据えて取り組む。

日刊工業新聞 2024年11月26日

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