廃コメ→紙…廃棄物を素材に、製紙業界の再資源化が活発化している
製紙業界で他社と連携しながら廃棄物を再資源化する動きが活発化している。紙卸商のペーパル(奈良市)は北越コーポレーションと連携し、廃棄予定だったコメを使った紙素材を開発した。印刷特性を高めるために紙の表面に塗る化学薬品をコメで代替し、製造時の二酸化炭素(CO2)排出量の削減に成功した。各社の取り組みは環境負荷の低減に加え、紙の価値を高め、市場が活性化する効果も期待される。(下氏香菜子)
ペーパルが北越と連携して製造・販売するのが「kome―kami(コメカミ)浮世絵ホワイト」だ。生産や流通過程で食用として使用できなくなったコメを回収。コメを粉砕し、パルプと混ぜ合わせて薄く伸ばした紙の表面上に、コメを使った塗工液を均一に施している。紙の強度や発色を良くするために欠かせない塗工液の一部をコメに代替することで、紙を1ロット(6トン)製造する際のCO2排出量を従来比で約104キログラム削減することに成功した。
さらにペーパルは深刻化している食品ロス問題に着目。売り上げの1%をフードバンクに寄付している。食品ロスの低減と食事が行き渡らない人への支援を両輪で進めることで、紙の販売を通じ社会課題の解決につなげる狙いがある。
浮世絵ホワイトは江戸時代に浮世絵の発色向上にコメが使われていたことに着想を得た。実際、同製品は浮世絵のように鮮やかで力強い色を出せる特徴を持つ。ペーパルの廃棄素材の前処理に関する知見と北越の製造技術を合わせ、約1年かけて商品化。北越の新潟県内の工場で生産している。
これまでに名刺やカタログ、化粧品の包装用途などで採用実績がある。「環境や社会課題の解決につながる活動を発信したい企業からの引き合いが増えている」(ペーパル)とし、今後商品群の拡充を検討する。
製紙業界ではこのほか王子ホールディングス(HD)が星野リゾートと連携し、使用済み紙コップをハンドタオルに再生する取り組みを始めた。日本製紙はニチバンと共同で粘着テープの製造時に発生する剥離紙をリサイクルし、段ボールにすることに成功。国際紙パルプ商事は学研ホールディングス(HD)などと連携し、書店から回収した返本を再資源化する活動を開始。第1弾として学研HD傘下のGakkenが発売した図鑑に再生素材を採用した。
脱炭素や資源の安定確保に向け、資源循環の重要性が高まっている。経済産業省はサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に必要な環境整備へ、2023年に産学官の協議体を発足した。政府の試算では循環経済の市場規模は30年に20年比1・6倍の80兆円、50年に同2・4倍の120兆円に拡大する見込みだ。
製紙業界は新聞、段ボールなどの古紙を回収し、リサイクルする資源循環で先陣を切ってきた。各社は今後、異業種とも連携しながら、紙の知見を生かして廃棄物の再資源化を推進する戦略を強化する。紙の価値向上を通じ、商機創出にもつなげたい考えだ。