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木からクルマ!…“セルロースの先駆者”、静岡に集結したすごい技術

静岡県で植物の主成分であるセルロースを使った商品が次々と生まれている。製紙業が集積する土地柄に加え、ムダなプラスチックの削減や資源循環の潮流があり、開発に拍車がかかっている。10月下旬、静岡県富士市で開かれた「ふじのくにセルロース循環経済国際展示会」には、過去ない規模のセルロース商品が集結した。(編集委員・松木喬)

展示会には1人乗り電気自動車(EV)のコンセプトカーが登場した。木を思わせるブラウン調の車体の後方、荷物収納カバーに近づくと格子状の模様が透けて見える。表面は樹脂だが、内部は紙製の布だ。

布は紙をよって糸にし、縦糸と横糸を編み上げた。杉山紙業(静岡清水区)による伝統技能だ。この紙製の布を樹脂に浸し、大面積のカバーに成形した。製作に携わった静岡大学の西村拓也特任教授は「木が布となり、EVになるところにストーリー性がある」とこだわりを語る。

カバーは紙の比率が高く、プラスチックの使用を減らした。ただ、吸湿性が生じて使っていると色が変わる。通常なら変色は許されないが「色の変化も楽しめる価値にしたい」(西村特任教授)と語る。使い込むうちに風合いが生まれる木材製品のようだ。

コンセプトカーは静岡県、静岡大学、トヨタ車体が連携して製作した。他にも県産杉を細かく砕いて樹脂で補強したボディー、セルロースナノファイバー(CNF)の床材も搭載した。

注目ナノファイバー/植物が強度をプラス

スズキのレース用バイクにも天然素材が使われていた。ボディーに光をかざすと、内部の糸が浮かび上がる。糸の正体は植物の亜麻(あま)。トラス(静岡県沼津市)がプラスチックの強度を高める強化材として使用した。通常は炭素繊維だが、亜麻でも十分な強度が出る。

スズキのブース脇には、エフピー化成工業(静岡県富士市)と巴川コーポレーションが共同開発したセルロース繊維複合樹脂も出展されていた。

亜麻で補強したバイクのボディー。炭素繊維での補強と同等の強度

CNFの商品展示も目立った。CNFはパルプを細かく解きほぐしてナノ(10億分の1)サイズした素材。鋼鉄の5分の1の軽さでありながら5倍の強度を持つ。

大昭和加工紙業(静岡県富士市)はCNF入りの接着剤で貼り合わせて強度を高めた紙製品を展示した。触るとカチカチで板のようだった。プラスチック代替として提案している。

丸富製紙(同)はCNFを使い、1本300メートルのトイレットペーパーを実現した。1本で一般的な商品の6本分の長さだという。中心部の穴をCNFで固くし、トイレットペーパーを何重にも巻けるようにした。長くなったことで交換頻度を減らせるほか、備蓄しても場所をとらない。佐野武男社長は「引き合いが多いが、供給が追いつかない」とうれしい悲鳴を上げる。

CNF入りの接着剤で貼り合わせて強度を高めた紙(大昭和加工紙業)

ふじのくにセルロース循環経済国際展示会は2017年から静岡県などが開催しており、今回で8回目。初回は出展は47社だったが、今回は123社まで増えた。県外からの来場者が多く、新しい用途開発に向けたビジネスマッチングの場になっている。

8回目、出展123社/紙から多角化、着々と

製紙会社が集積する静岡県は、セルロースを活用した商品開発で先行する。県経済産業部産業革新局の中山洋技監は「自動車や家電といったセルロースのユーザー企業も集積しており、バランスが良い」と付け加える。

県も「ふじのくにCNFプロジェクト」を展開し、政策パッケージとして開発を支援している。知事が会長を務めるフォーラムには400社以上が参加し、企業連携の場となっている。富士工業技術支援センター内に研究開発センターを設置したほか、企業に助言するコーディネーター3人も配置する。社会実装を見据え、使い終わったセルロース製品を回収、再利用する実証も始める。

「企業が取り組みやすい環境整備が大切であり、県は側面支援する」(中山技監)と意気込む。ペーパーレス化によって製紙の市場が縮小する前に先手を打ち、“セルロース経済圏”の形成を目指す。

日刊工業新聞 2024年11月15日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
サステナ素材系の展示会に行くとセルロース製品を見ることがありますが、今回のような専門展は初めてで、すでに大量のセルロース製品があることを実感しました。実用化、普及が目前と思いました。それにストーリーがあって親しみやすいと思いました。

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