トヨタ×いすゞ・日野自動車が開発…広がる商用FCトラック、活発になる産官の動き
物流効率化・水素充填インフラ整備
燃料電池車(FCV)の商用分野での適用拡大に向けて産官の動きが活発化している。自動車メーカーは大型・小型の燃料電池(FC)トラックの開発を加速。物流事業者側ではFCV導入に必要な原資を捻出するため、現場業務の効率化などの改善策が進む。自治体は大型車にも適した水素ステーションの設置や、製造業、食品業など分野ごとのFCV導入成功事例の創出に乗り出した。商用分野での水素利用拡大は物流業界の脱炭素化はもちろん、水素社会の実現に向けても重要な要素となる。(名古屋・川口拓洋)
商用FCVの普及をけん引するのはトヨタ自動車の子会社で、いすゞ自動車などが共同出資する商用車企画会社のコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、東京都文京区)だ。同社では小型・大型のFCトラックの開発が進む。担当者は「市販ではないが小型は展開が始まった。大型は開発中だが、スペックは分かってきた」と進捗(しんちょく)を説明する。
FC小型トラックはトヨタといすゞが共同で開発。いすゞの小型トラック「エルフ」をベースに最大積載量2950キログラム、航続距離約260キロメートルの仕様に仕立てた。
大型はトヨタと日野自動車が担当し、大都市間など幹線輸送に求められる積載量や短時間での水素充填などの条件を確保する。開発中のFC大型トラックでは航続可能距離約600キロメートルを目標に据える。長距離輸送に用いる大型トラックの場合、バッテリーの積載量や充電時間の問題から電気自動車(EV)への置き換えは難しいとの見方もある。電動化の有力手段としてFCの利点を生かし、物流の脱炭素に貢献する。
CJPTでは車両の電動化とともに、「今すぐできるカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)」対策との位置付けで物流現場の業務効率化もサポートしている。
連携先の1社である小売り大手のイオンとは、同社の物流センターでトヨタ生産方式(TPS)の思想を取り入れたモノの整流化を推進する。コンテナや台車の積載率を最適化。トヨタが持つ車両データなどを基に最適な配送計画を組むシステム「E―TOSS(イートス)」を導入し、トラックの総走行距離を10%短縮した。二酸化炭素(CO2)排出量も10%削減するなど成果を上げている。CJPT担当者は「電動化やCN社会の実現に共感する会社と連携を進める」と成果の横展開に期待する。
トヨタの本社がある愛知県もFCトラックの導入に熱心だ。県内の水素ステーション数は全国1位の35カ所(6月時点)。FCバスなどに対応できる大型ステーションも20カ所に上る。愛知県経済産業局では商用FCVの重点エリアとして県内6カ所を選定。FC大型トラックが水素を充填できるようインフラ整備に乗り出す。同局産業部の土本和範水素企画グループ主査は「CJPTとともに需要を喚起し、水素トラックをしっかり入れていく」と語る。
同県では有識者、輸送事業者、荷主、車両メーカー、自治体などで組織する「あいち物流脱炭素化推進会議」を10月に立ち上げた。まず宅配食事サービス事業者でFC小型トラックを利用したモデルケースを構築中。2025年には製造業や生鮮食品を扱う事業者などに事例を横展開する方針だ。
並行してFC大型トラック導入のためのスキームも仕掛ける。土本主査は「意欲ある事業者を募集し連携していきたい」と意気込む。