世界に打って出るスタートアップ輩出…名古屋工大が始動、共創拠点構想の全容
名古屋工業大学は立地する名古屋市昭和区鶴舞地区を舞台に、世界に打って出るスタートアップを輩出する共創拠点「イノベーションパーク」構想を始動する。同地区には世界最大級の創業支援拠点「ステーションAi」が開業。産学官共創の機運の高まりをとらえ、企業や行政、スタートアップ、アカデミア(学術界)に結集を呼びかけ、同地区をイノベーションパーク化して発展を目指す。名古屋工大は研究の高度化、博士人材の育成強化を推進し、イノベーション創出を先導していく考えだ。(名古屋・鈴木俊彦)
同地区には名古屋市が管理する都市公園「鶴舞公園」があり、市民の憩いの場となっている。一方で、同公園に隣接して名古屋工大、名古屋大学医学部付属病院、中小企業基盤整備機構が運営する名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)が半径500メートル圏内に立地しており、学術研究の集積地という色合いを持つ。
ステーションAiは同公園南側に位置する。10月31日の開業を機に、同地区でスタートアップが生まれる環境が整ったとして、地元では起業の機運醸成への期待が高まっている。
名古屋工大が掲げる共創拠点構想の名称は「TSURUMAIイノベーションパーク」。自動車、航空宇宙など中部地域が強みとする製造業の集積を活用しながら、行政、スタートアップ、大学などが特色や強みを持ち寄り、オープンイノベーションの実現を目指す取り組みだ。
同構想を推進する柿本健一名古屋工大理事・副学長は「鶴舞地区から世界に最先端技術を発信するとともに、世界から企業や人材を呼び込みたい」と展望する。
拠点化の第一歩として、名古屋工大は強みとする情報通信技術(ICT)、人工知能(AI)などを核に、さらなる研究の高度化、融合研究を推進する。2021年に設置した未来通信研究センターが、共創の中心的な役割を担う。自動運転、コネクテッドに必要な通信の高信頼化技術に取り組んでおり、研究成果を国際的な規格化につなげることを目指している。
23年4月には国内大学で初の規格適合、相互接続試験を行うテストハウスを設置。共創の場としても活用していく方針だ。
期待が高まる一方で、日本発のイノベーションに課題もある。日本でユニコーン(時価総額10億ドル超の未上場企業)がほとんど生まれていないのが現状で、その理由の一つとして「日本では博士人材が活躍できていない」(柿本理事・副学長)ことが挙げられる。
新産業の創出は“破壊的イノベーション”といわれる。多角的で、グローバルな知見を持った博士人材はイノベーションの源泉だ。
そこで、名古屋工大は博士人材の育成を重視し、取り組みの強化を打ち出している。世界トップレベルの博士人材の育成を目指して設置した「博士グローバルアカデミー」の機能を拡充。地域産業界の技術者の博士号取得(アップスキリング)などの取り組みに加えて、今後は海外への研究者派遣、留学生受け入れを活発化する考えだ。
育成したグローバル人材は地域産業界、スタートアップに橋渡しを行い、流動化を促進。博士人材に活躍の場を提供することでイノベーション創出につなげる。
同構想の始動により、早ければ25年始めにも、学内にステークホルダー会議を設置する計画。愛知県、名古屋市、中部経済産業局、地元企業など産学官からの意見を踏まえ、構想を推進していくとしている。