増額求める途上国…争点は気候変動対策資金、アゼルバイジャンでCOP29
気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が11日、アゼルバイジャンの首都、バクーで始まる。途上国の気候変動対策を支援する資金問題が大きな争点だ。現在は年1000億ドル(約15兆円)を目標として先進国が資金を出しているが、COP29では25年以降の目標額を決める。増額を求める途上国と拒みたい先進国の構図が予想されるが、欧米はビジネスチャンスを窺いながら、増額に応じるとの見方もある。
気候変動による自然災害が多発しており、インフラ整備が不十分な途上国ほど大きな被害を受けている。温暖化対策以外に災害対策も急務となり、途上国は増額を求めている。準備交渉が始まっているが、「途上国は1ケタ違うと言っている」(環境省幹部)と、先進国側と意見の隔たりがある。
歴史的に温室効果ガスを大量に排出してきた先進国が大きな責任を果たすべきだとして、途上国への資金支援が行われてきた。COP29では、あらためて「誰が、どんな資金を出すのか」(同)が問われている。日本をはじめ先進国は、中国やインドを念頭に経済力を付けた「能力ある国」にも拠出を求めている。また先進国は民間投資も含めた目標額を主張するが、途上国には政府資金に限定すべきだという意見も根強い。
資金問題は交渉カードになっており、途上国は先進国が求める削減対策を実行する代わりに増額を引き出そうとしており、最終日の22日まで駆け引きが予想されそうだ。
日本にいると先進国は増額に後ろ向きと伝えられているが、環境金融が専門の立命館アジア太平洋大学の須藤智徳教授は「先進国側は増額に決してネガティブではない。欧米は比較的、景気が良好なので投資機会を増やしたい思惑がある」と解説する。
拠出額が増えれば途上国での投資が活発化し、多くのビジネスが生まれる。そうなれば欧米にとっても途上国でビジネスを獲得する機会が広がる。欧州連合(EU)には域外で再生可能エネルギーへの投資を増やしたい思いがある。米国は過熱気味の国内経済に警戒感があり、海外に資金を振り向けることができる。
また須藤教授は、議長主導で立ち上げる気候資金行動基金にも注目する。産油国や石油関連企業が自発的に資金を出し合い、途上国の排出削減や災害対策を支援する基金だ。
化石燃料への「有害な補助金」を減らすことが国際合意となり、23年のCOP28はすべての化石燃料からの脱却にも合意した。産油国にとって急速な“脱化石燃料”は痛みを伴うが、基金の資金を活用することで再生エネや水素エネルギーへの投資を呼び込み、軟着陸できる。須藤教授は「産油国のアゼルバイジャンが脱炭素への移行にインセンティブとなる基金を主導する意味は大きい」と話す。
新たな資金目標が決めると巨額投資が発生し、脱炭素マネーが動く。日本企業も海外市場に技術や製品を売り込めるように、日本政府にはしたかな交渉が求められる。
【アゼルバイジャンの今】脱・石油依存を模索
アゼルバイジャンは旧ソ連の構成国で南はイランに接し、東はカスピ海に面する。人口は1050万人。
立命館アジア太平洋大学3回生の笹園晟真さんは23年8月―24年7月、同国に留学した。「いま行かないと行けない国だから」と思って留学先に選んだ。
バグー中心部は高層ビルが立ち並ぶが、郊外は旧ソ連時代からの建物で暮らす人がいて貧富の差を感じたという。夏は40度Cになるが、湿気がなくカスピ海からの風で過ごしやすい。逆に冬は風が冷たく、体調を崩すことがあった。優しい人が多く、治安は悪くなった印象だ。
石油採掘現場にある機械をデザインした商品を目にすることが多く、「国民にとって石油は象徴的なもの」と理解していた。政府は再生可能エネルギー比率を高めている。COP29の招致からも、石油に依存した経済から脱却しようすると意思を感じており「どうやって持続可能な社会を作るのか、興味がある」と話す。