氾濫する「フェイク」対策に試金石。富士通・NECなどAI技術で挑む国プロが立ち上がる
検知・真偽判定技術を統合
氾濫するフェイク(偽情報)に人工知能(AI)技術で対抗する国プロが立ち上がる。富士通とNEC、国立情報学研究所など9機関がフェイクの検知技術や真偽判定支援技術を開発する。要素技術を統合して2025年度中に偽情報対策プラットフォームを構築する。民間や公的機関のファクトチェックを支援する計画だ。会員制交流サイト(SNS)での取り組みは今後広がるAIサービスのフェイク対策の試金石になる。(小寺貴之)
「個々の要素技術は優れたものがある。統合して実用に資するプラットフォームを作れるかが勝負」―。富士通の山本大リサーチディレクターは気を引き締める。9機関のプロジェクトが内閣府の経済安全保障重要技術育成プログラムに採択された。情報学研のディープフェイク検知技術や富士通と慶応義塾大学のグラフ構造でのデータ管理技術などを組み合わせる。
まずSNSへの投稿を画像やテキスト、位置情報などの断片に分解し、その関係をグラフ構造に表現する。データのつながりをたどると情報の根拠を特定できる。さらに断片ごとに生成AIで作られたデータかどうか自動判定したり、情報間の整合性や矛盾を自動判定したりしてグラフ構造データに蓄積していく。
ファクトチェックの際には根拠と真偽を可視化して提示する。人手で1から情報を集めるのではなく、蓄積された情報を見て総合的に判断できるようになる。自然災害の被害把握であればSNSの投稿や河川監視カメラなどの情報を統合する。ユースケースごとに求められる時間軸や根拠が変わる。事案によっては白黒つかないグレーな状態でも途中経過を発信する必要がある。グレーな調査結果は事実の信頼性を損なうという副作用もある。そのため、まずはプロユースを想定する。山本リサーチディレクターは「ユーザーと相談し24年度中に要件を定めたい」と説明する。
SNS上のフェイクは量が多く、影響範囲も広いが、検証可能という特徴がある。今後普及するAIサービスはユーザー一人ひとりに個別化して情報を提示する。情報学研の山岸順一教授は「パーソナライズと真偽検証のトレードオフが生じるだろう」と指摘する。
富士通の今井悟史データ&セキュリティ研究所所長は「サービスにAIを使う企業はフェイクが入り込むリスクを懸念している。10年先の話でなく、5年後には顕在化しているだろう」と予想する。SNSフェイク対策で技術や運用の知見を蓄え、新事業開発を支えられるか注目される。