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キヤノンは部品リユース率9割超…資源循環加速するOAメーカー、口をそろえる課題

キヤノンは部品リユース率9割超…資源循環加速するOAメーカー、口をそろえる課題

再生複合機を生産する富士フイルムマニュファクチャリングの鈴鹿事業所

海外の回収率向上など課題

事務機器(OA)各社が資源循環の取り組みを強化している。使用済み製品の回収・分解を経て作られる再生複合機で、キヤノンは部品リユース率9割超を実現。富士フイルムビジネスイノベーション(BI)やリコーは再生部品に係る独自技術や生産の効率化を加速してきた。環境意識の高まりも寄与し再生機の販売台数は増加傾向にあるが、一段の生産台数増加に向けては海外での回収率向上なども課題になる。(新庄悠)

複合機業界は複合機本体の販売後にトナーの交換や保守などで利益を生み出すビジネスモデルで、各社は顧客接点の強化を追求してきた。「どう機械が使われたかという情報を得やすい」(キヤノンの加藤隆行プリンティング事業ライフサイクルバリュー統括センター所長)上に、使用済み機の回収もしやすく、各社の国内回収率は9割以上を誇る。

回収機は分解して再利用できる部品は活用し、清掃・組み立て後は新造機と同等の品質検査を経て再生機として出荷する。各社の部品リユース率は8割を超えるが、さらに高めるには、製品の“顔”であるプラスチック製外装カバーのリユースがポイントの一つとなる。経年で黄変するため従来は交換するしかなかったが、技術の向上で再利用が進む。

富士フイルムBIは粒子状の研磨剤を吹きつけて黄ばみを除去するブラスト加工を、キヤノンはマット感を出す加工をそれぞれ施す。リコーはレンタル向けには洗浄などを行って再利用しつつ、技術開発や評価法の見直しを検討する。

他の部品に関する各社の取り組みも光る。富士フイルムBIは、トナーを感光体へ運ぶ機能を持つトナーキャリアを廃トナーから分離・再生する技術を確立した。関連会社の富士フイルムマニュファクチャリング(神奈川県海老名市)の磯村英司鈴鹿事業所長によると、一般的には「新造のトナーキャリアはプラントで大量に作るが、再生品は少量なので(再生のために新たに拠点を作るようでは)商業ベースに乗せるのが難しい」。同社では廃トナーの収集やトナーキャリアの再生を同一拠点で行うことで採算性の確保を図っている。

富士フイルムBIの岡崎仁資源循環戦略推進部戦略推進グループ長は部品リユース率について「まだ伸びしろはある。例えば、部品の劣化している2割の部分だけ直すといった攻めどころがある」と語る。生産性やリユース部品使用率、販売台数比率のバランスを取りつつ、再利用する資源量の最大化を追求する方針だ。

キヤノンは稼働データや部品交換履歴などの保守作業記録をクラウド上で一括管理し、機器と紐付けてリユースの可否判断に活用。本体の骨格を統一するプラットフォーム(基盤)化も推進し、「ユニットなどの共通部分が増え、世代をまたがった機種でも再生できるようになってきた」(村上歩GX推進プロジェクトチーフ)。

生産効率を向上させるため、社内連携を強化するのがリコーだ。再生機は新造機よりもいかに低コストで生産できるかが重要だが、回収機は1台ごとに状態が異なり、手間やコストがかかりやすい。

そこで同社は再生機の生産を手がける環境事業開発センター(静岡県御殿場市)が、新製品の自動化開発などを担う部隊と協力して自動化を推進。「清掃工程や一部の分解工程で自動化を進めてきたが、さらに進化させるために社内の知見をフル活用する」(成海淳リコーデジタルプロダクツビジネスユニットWP事業本部長)。方向性などを固めて25年度から本格始動する予定だ。

資源循環の加速を図る各社は「海外での回収率向上が課題」と口をそろえる。再生するにも、原資となる回収機がなければ生産・販売台数は増やせない。日本とは商習慣などが異なる海外で回収率を上げる施策が今後のカギを握りそうだ。

日刊工業新聞 2024年11月05日

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