三菱商事・丸紅・三井物産…商社が人的資本経営を高度化、それぞれの人材戦略
OBが部長クラス面談・デジタル実務経験を社内公開
大手商社が社員の能力を可視化し、適材適所やスキルの有効活用などの人材戦略を進めている。三菱商事は部長クラス約700人を対象に、経験豊富なOBが面談でリーダーシップなどを客観的に評価し、蓄積した人材情報を配置転換に生かす。丸紅は認定したデジタル人材の専門領域を社内に公開し、部門の垣根を越えたプロジェクト参画を推進する。経済環境の急速な変化に対応するため、任用や役割を柔軟に変えて社員が能力をより発揮しやすい環境の構築を急ぐ。(編集委員・田中明夫)
【三菱商事】三菱商事は部長や子会社のトップなど要職を担う約700人を対象に、人材評価の研修などを受けた同社OBがフィードバックを含め1人当たり90分の面談を2回行う。面談では、担当業務にどのように取り組んだのかを、理由を含め聞き取って行動様式を把握する手法「ビヘイビア・イベント・インタビュー」(BEI)を採用。周囲を動かすリーダーとしての資質や戦略を練る構想力などを浮き彫りにし、OBがリポートにまとめて面談の対象者と経営陣が共有する。
評価者のOBは三菱商事の本部長や海外拠点トップなどの経験を持つ60代前半の層が中心で、現在は同社の人材子会社に所属する8人が務める。従来の人事面談に加え、経験豊富なOBが客観的に評価することで「人材情報の質が高まったのは間違いなく、社員の配置判断を変更するケースも出てきている」(塚田光人事部タレントマネジメントチームリーダー)という。
現在は3年間で約500人の評価が終了し、可視化した人材情報を研修体系の見直しにも生かし始めた。面談前に行う評価対象者の経験の棚卸しや面談後のフィードバックは本人が気付きを得る機会になるなど、次代のリーダーを目指す意識付けを後押しする。
【丸紅】丸紅は自社で認定したデジタル人材の専門分野や実務経験を閲覧できる社内サイトを開設。就業時間の15%を担当とは別の業務に充てられる社内制度を活用し、「部門を越えて新規事業に人材を“スカウト”するなど、タレントマネジメント機能として活用が進み始めている」(大倉耕之介デジタル・イノベーション部長)という。
またデジタル人材認定の登竜門の一つとなる育成プログラムでは、丸紅の課題解決をテーマに事業効率化やマーケティングの立案に取り組むなど実践を重視する。磨いたスキルの社内公開を通じて広く事業に生かせる仕掛けも魅力で、累計の認定者は開始3年目で約650人にまで増えた。
【三井物産】三井物産は年内に人材情報の一元管理システム「ブルーム」を国内外のグループ全体で稼働させる。社員が自ら事業経験やスキルを入力できる仕組みで、自律的なキャリア形成を促すとともに他部門が情報を閲覧してプロジェクト参加者をグロバールに集められる。
総合商社は多くの事業群で脱炭素やデジタル化などに伴う産業構造の急速な変化に直面し、専門人材を育てるだけでは後手に回るリスクが高まっている。社員の知見やスキルを可視化して配置を柔軟に変更するなど、人的資本経営の高度化が求められる。